[Top]

仏説救抜焔口餓鬼陀羅尼経(T1313)


 

[Table of Contents]

はじめに

『佛説救抜焔口餓鬼陀羅尼經』(大正No.1313; 第21巻(密教部); pp464--465)の、 大雑把訳です。原文は[SAT] で見ることができます。

『佛説救面然餓鬼陀羅尼神呪經』(No. 1314)[SAT] と かなり近い内容のようです。

[Table of Contents]

大雑把訳

佛説救拔焔口餓鬼陀羅尼經

開府儀同三司特進試鴻臚卿肅國
公食邑三千戸賜紫贈司空謚大鑒
正號大廣智大興善寺三藏沙門
不空奉         詔譯

世尊が、迦毘羅城尼倶律那僧伽藍所で 大勢のお坊さんたち、菩薩様たちに囲まれて説法しておられた時のことです。

 そのとき阿難はひとり静かなところで仏の教えを念じていました。

 その夜、午前一時を過ぎた頃でしょうか。焔口という名の餓鬼が出現しました。 醜く、痩せこけ、口中は燃え、喉は針のよう、髪はバサバサで 長い爪は尖り、とても恐ろしい姿をした餓鬼は、 阿難に向かってこう言いました。「三日後に汝は死ぬ。そして即座に 餓鬼世界に生まれるだろう」

 阿難は怖くなってこう聞きました。「俺が死んだら餓鬼世界に生まれるって?! ‥助かる方法はないの??」

 餓鬼は言いました。「あす、 餓鬼たちの大大大群衆と、これも大勢の仙人の方がたに布施せよ。 マガダ国で使ってる斛(大きな ます)を使い、各人に一斛(唐代の中国だと 約60リットル)の食べ物飲み物を供えよ。 それと、儂に三宝を供養せよ。さすれば汝の寿命は延びよう。 儂から餓鬼の苦悩を除き、天界に生まれるようにせよ」

 阿難は焔口餓鬼に目をやります。身体は痩せこけ醜く、口中は燃え、 喉は針のよう、髪はバサバサで長い爪は尖ってます。 こいつの言うとおりにしないと‥と、無茶苦茶怖くなり、立ち上がって 仏のおられる場所に駆けつけました。

 五体投地して仏足に頭をつけ、 おびえながら、仏に申し上げます。「助けてください。 静かな場所で仏の教えを念じておりましたら、 焔口餓鬼が話しかけてきました。おまえはあと三日で死に、餓鬼世界に 生まれる、と。私はどうすべきか尋ねました。餓鬼は言いました。 餓鬼どもの大大大群衆と、大勢の仙人に飲食物を供えれば 寿命が延びる、と。世尊。餓鬼仙人どもの食事の件にどう 対処すればよいでしょうか」


そのとき世尊は仰せです。「そう怖がるな。 餓鬼どもの大大大群衆と、仙人どもへの食べ物飲み物を供えさせる ことができる、いい方法がある。だからもう悩むな」

 仏は仰せです。「無量威徳自在光明殊勝妙力という呪文(おまじない)がある。 この呪文(おまじない)を唱えるだけで、餓鬼の大大大群衆と、大勢の仙人ども の一人一人に、マガダ国で使っている斛の七 七個分の 上妙の食べ物飲み物を供えたことになるのだ。 阿難。私は過去生で仙人だったとき、観世音菩薩のところで、また、 世間自在威徳如來のところで、 数えきれないほどの餓鬼と仙人たちに飲食物をお供えすることで 餓鬼どもを苦から脱出させ天界に生まれ変わらせることのできる、 この呪文(おまじない)を教わったのだ。阿難。おまえは今これを習得せよ。 そうすれば幸福も寿命も増大する」

 そして世尊は阿難に呪文(おまじない)を教えました: 「那謨薩嚩怛他蘖多嚩盧枳帝唵參婆囉參婆囉吽」

 仏は阿難に仰せです。「もし、長生きして幸せになりたいとか、 施しによる修行をサッサと完遂させたいという人がいたら。 毎朝か、いつでもいいのだが、 清潔な容器にキレイな水を汲んで、 ご飯ダンゴ餅などを少し置いて、食器を右手で押さえて、 さっき教えた おまじない を七回唱えよ。 続いて、四如来のお名前をお呼びせよ。

「曩謨婆誐嚩帝鉢囉二合枳孃二合多囉怛曩二合怛他(eKanji data)多也」多寶如來のこと ‥‥多宝如来のお名前によるご加護で、鬼が持つケチなる悪業を解消できる。 それで円満解決、幸せになれる。

「那謨婆誐嚩帝素嚕波耶怛他誐哆野」「南無。妙色身如來に」と言っている ‥‥妙色身如來のお名前によるご加護で、鬼の醜い姿を打破できる。よい容姿となるだろう。

「曩謨婆誐嚩*帝尾鉢囉二合誐攞(eKanji data)多怛囉二合也怛他 (eKanji data)多也」廣博身如來のこと ‥‥廣博身如來のお名前によるご加護で、鬼のノドが広がる。供えられた食物で充足できる。

「曩謨婆誐嚩*帝阿孕迦囉也怛他蘖多也」離怖畏如來のこと ‥‥離怖畏如來のお名前によるご加護で、鬼たちを餓鬼世界から離れさせることができる。 それにより、鬼たちから恐怖がなくなる」

 仏は阿難らにお告げになられました。 「四如来の名前を呼んでご加護が得られたら。七回指をはじくべし。 そして食器を手に取り、キレイな地上に、肘をのばしてこれらを注ぐべし。 こうすれば、 四方にいる餓鬼の大大大群衆のそれぞれに対し、マガダ国で使われてる斛の 七 七杯分を用意でき、これを食べた皆が満腹する。 そして鬼たちは皆鬼の身体を捨て、天界に生まれ変わる。」

 「阿難。この呪文(おまじない)と四如来の名前によるご加護によって 鬼に食事を施す仏教徒がいたなら、 その人は ものすごく幸せになれる。 そしてこれには、ものすごく大勢の如来たちを供養したのと同じ功徳がある。 寿命が延びるし元気になるしラッキーになる。 非人、夜叉、羅刹、諸惡鬼神どもを寄せ付けない。 幸せも寿命も限りない。」


「もし仙人たちに布施したいなら。浄飲食で器を一杯にして、 例の呪文(おまじない) 二 七回を唱えて、器を淨流水中に注げ。すると、 それが仙人たちの極上の食事になる。 大大大人数の仙人たちを供養すると、 供養された加持食が生み出す呪文のパワーによって、 仙人たちが皆それぞれの願いを達成する。」

 「すると彼らはこんな誓願を発するだろう: 『できればこの食事を供養してくれた人の寿命をのばして、 ハッピーにしてください。また、その人が見聞したことを正しく理解し、 梵天様のパワーを身につけ、良き行いをしますように』と。 これもやはり、ものすごく大勢の如来たちを供養したのと同程度の功徳があって、 怨念などを一切寄せ付けなくなる。」


「もし坊さん尼さん仏教徒が三宝(仏法僧)を供養したいと思ったときは、 お香、華、そして清浄な飲食物と、 例の おまじない21回を、三宝にお供えせよ。 すると、たくさんの世界の仏法僧に対して天餚膳上味をお供えした ことになる。 また つねに仏様がたを念じ賞賛するのも大事で、 さすれば諸天善神が常に助けてくれるようになるし、 施しによる修行を完遂することになる。」

 「阿難。おまえは私が言ったとおりに行うべし。また、 これを知ることによって皆が限りなくハッピーになれるよう、広く伝えよ。 今言った内容を『救焔口餓鬼及苦衆生陀羅尼經』と名付け、後代に 残すように」

阿難ら、そこに居合わせた皆が仏の教えを聞いて心に刻みつけ、 大喜びしました。

救拔焔口餓鬼陀羅尼經おわり

[Table of Contents]

[めも] 呪文(おまじない)について

呪文(おまじない。陀羅尼)のところ、訳さず漢文のままですけど。

 呪文というのは ぜんぜん意味不明だけど伝えられたままのものを唱えるのが大事、 翻訳してしまうと呪文本来の意味がなくなってしまうし、 呪文は意味不明のほうが「それっぽい」ということで、そのままにしてます。

 ‥でも。それだけだと つまんないかもしれませんので。たとえば多宝如来のところ、

「曩謨婆誐嚩帝鉢囉二合枳孃二合多囉怛曩二合怛他(eKanji data)多也」
こんな感じで書かれていますけど。これをちょっと解釈してみましょう。

 まず先頭の「曩謨」は「のうもう」→「ナモー」で、訳すと「帰依」になりそうです。

 次の 「婆誐嚩帝」は「ばがばくてぃ」→「バガバティ」で、訳すと「尊者」とか「世尊」とか。 これは神様仏様に対する尊称ですね。

 そして「鉢囉二合枳孃二合多囉怛曩」。 ここで「二合」とかいうのは呪文の節回しの仕方に関する情報だと思いますけど 正直、そういうのは詳しくないので全然わかりません。なのでそこは無視します^^;。 まず「鉢囉」が「ぱら」。 「枳孃」はよくわからないんですけど、たぶん「じょうにょう」的に読むんですかね。 残る「部多囉怛曩」のうち、 「」のところはたぶん「音をのばせ」という意味だと思いますので、 すると「ぶーたらたんのぅ」。そして、この3つを合体させると「ぱら・じょうにょう・ぶーたらたんのぅ」。

 多宝如来のサンスクリット名は「ブラブータラトナ」というんですけど。それを知っていれば、 この「ぱら・じょうにょう・ぶーたらたんのぅ」は、真ん中にある「じょうにょう」を抜かせば 「ぱら・ぶーたらたんのぅ」でピッタリ来ることに気付くと思います。 なんだ、多宝如来のお名前じゃん!‥ということなんですけど。でも「じょうにょう」はどうすんの?

 ‥たぶん、これはいわゆる「伝承の混乱」ということだと思います。 一部の伝承(写本)において「プラブータラトナ」という名前の「プラ」と「ブータラトナ」の間に、 「ジュニャー」(知)という単語が入ってしまった。その、固有名詞に混乱がある 文献(伝承)が現代まで残ってしまった。そういうことじゃないかと思います。 なので、この文献では「プラジュニャーブータラトナ」が多宝如来のお名前である、と 解釈しておきます。

 残るは「怛他(eKanji data)多也」。これは 「たんたがたや」→「タターガターヤ」で、訳すと「如来に」。

 以上、まとめると多宝如来部分の呪文全体は 「帰依・尊者・多宝・如来に」となって、おお、だいたい解読できちゃった! (^o^)

 ‥んで、こうして解読してみると、 呪文の中で語られてる言葉には実のところ たいした意味はない、 呪文はその呪文的なところに大きな意味がある(何だかわからないところが逆にスゴそう)、 ということがわかるんではないでしょうか。

(「呪文が魔術的なパワーをもつ」のが仏教に限ったものでなく、古い文化では 普通な考え方だった。‥的な話については [ こちら ] をどうぞ! )

[Table of Contents]

[めも] 日本への影響

日本における「餓鬼」のイメージは、本経そのものより、本経をベースとした 「餓鬼草紙」などのほうが 影響を与えていたりするんじゃないでしょうか‥

[つづく :: 餓鬼とは]

[TA 2010]