ヴァッラバについて
[Table of Contents]ヴァッラバ説のかんたんな説明
前のページで、
「ぐる」の意味が変化してきたのは Vallabhacarya のあたりからだ、
という話が出てきていました。
そこで早速 vallabha について調べてみました。とりあえず使うのは、
何かにつけてよく使っているこの本: 金倉圓照『インド哲学史』平楽寺書店。
13世紀の頃ヴィシュヌ・スヴァーミン Viṣṇu-svāmin があらわれて
経の註釈を書き、ヴルラバがその宗旨を受けついだと古く伝えられて
いる。しかしヴィシュヌ・スヴァーミン(即ち「ヴィシュヌを主と仰ぐ」
という意味)を名とする人物は他にも多々ありうるので、この関係は未だ
明確でない点を残している。ともかくヴルラバ Vallabha が、1479-1531年
の間、世に在り、マトラー Mathurā 附近で生涯をおくり、クリシュナ
崇拝の一派を開いた。彼の子孫はこの一派の中心人物として代々信者から
絶大の尊崇をうけている。ヴルラバはヴェーダーンタ経及びバーガヴタ・
プラーナ Bhāgavata-Purāṇa に註釈を書き、その主張は純浄不二
Śuddha-advaita とよばれる。即ち、梵が世界に展開する時、マーヤーの
如き不純の原理によって損なわれることはないとするのである。彼によれば
神は自らの力 śakti で、3種の形相に自己を啓示する。第1は超越的な
世界の主クリシュナ、第2は非人間的の世界原理アクシャラ (akṣara 不壊)、
第3は内制者である。クリシュナは雑多性を自体の中に包容している。
永遠の遊戯に於て、この神は自己の属性である
有 sat 、 知 cit 、 喜 ānanda の中で、
喜を隠蔽することによって霊魂を造り、喜と知とを曇らすことによって
非情物を造った。従って、全世界は神の変形である。解脱に種々の段階があり、
最高のそれは、神の恩寵の道 puṣṭimārga によって無上の極楽に達し、
クリシュナと法悦を共にするにある。しかし最悪の者は永遠に輪廻を脱しない
と説いた。 (p.171-2)
今だと「純粋不二一元論」と言うのが普通になってると思うんですけど、
金倉先生がこの本を書かれた頃には
まだ定着した術語がなかったのでしょうね。
つまり、こういう感じでしょうか。--- ブラフマン(梵)は世界そのもの。
梵は3つの姿を取る: クリシュナ様、アクシャラ、内制者。
梵は3つの属性を持つ: 有、知、喜。人はこの3つのうち「喜」を隠蔽したもの。
だから逆に、この「喜」さえ入手できれば梵と同一になれる! それが解脱!!
そして「喜」を得る最上の方法こそ、神様の恩寵を得て、それにより
無上の極楽に達すること! ‥と。
(注意: これは上の引用を読んだ私の勝手な理解で、間違ってるかもしれません)
そして前ページのように、この時代から「師」に対する崇拝の傾向が
強まったということはつまり、「いかに師の恩寵を得るか」ということが
重要視されるようになってきた、ということですよね。剣呑剣呑‥
[Table of Contents]神と人の間にある強固な上下関係
それはそうと。
ヴァッラバは 15-6 世紀の、割と最近の人ということで、
bhakti 思想がかなり強烈になってますね。こんなことを書いている本も
ありました:
さらに後の著作家であるヴァルラバによると、バクティは「神」の
優越性と偉大さという感覚を伴った広大で堅固な愛の感情であると
定義している。この定義はバークタすなわち帰依者を従属する者の
位置においている。バークタは、人が自らの主人に向かって近づく
ように、「神」の慈悲と保護を求め「神」の特別な恩恵を懇願しながら
「神」に近づく者として述べられている
(S.N.ダスグプタ,高島淳 訳『ヨーガとヒンドゥー神秘主義』,p.157-8)
ここでの「神」というのはヴィシュヌ神のことです。
ヴィシュヌ(神)と人間のあいだにはハッキリとした上下関係があるみたい
ですね。でも「神(世界そのもの)の特別な恩恵」を求めた「親愛」というのは
私には正直ピンと来ないです。ヴァッラバ自身の思想はよくわからないので
アレなんですけど。でも「神の特別な恩恵」を求める場合、
ヴィシュヌという あまりに大きすぎて漠然とした御存在に対して
特別な恩恵が得られるような行為というのは、どうなんでしょう?
もっとそれよりも、目の前にいる 等身大の御存在(神様を体現した、特定の人物)に
対して恩恵を求めた方が、弟子にとっては いろいろ
やりやすそうでイメージしやすそうな感じがします。ですから
たぶん、理論というより実践における都合がよいということで、
信仰の対象も
「世界そのものとしての最高神」から「最高神と同等なる個人」へと
変化していくことになったんですかね。
(完全に私の妄想です)