[かんのんさま::メモ]

かんのんさまは南に西に

[梵文法華経/24:かんのんさまの章] に関する「めも」です。

[前] [付録] なぜ「三十三」?

[付録] なぜ「三十三」? (2)

[Table of Contents]

えっ? 童目天女??

 ここまで書いた文を読み返してみると、これでは終われないことに気づいてしまいました。 何故かというと『妙法蓮華経』の記述と Wikipedia の項目が一部合ってないじゃ ないですか! Wikipedia は

「(19)人身(じんしん) / (20)非人身(ひじんしん) / (21)婦女身(ふじょしん) / (22)童目天女身(どうもくてんにょしん)」
と書いてありますけど、 上の『妙法蓮華経』では
(19)が「長者(婦女身)」、(20)が「居士(婦女身)」、(21)が「宰官(婦女身)」、 そして(22)が「婆羅門婦女身」
となっています。

 Wikipediaに書かれてる、この4つはどこから湧いてきたの??? えー?! (@_@;

 ということで、ちょっと調べてみたんですけど(泥縄‥)、

 結論から言えばWikipediaにおける記述はどこから出てきたのか。 つまり「童目天女」なるものが一体何で、どこで「三十三身体」の中に 割り込んできたか。‥これについては全然わかりません。 (いろいろ検索してみてもヒットしない‥)

[Table of Contents]

摂無礙経とは

 唯一見つけたのが 『攝無礙大悲心大陀羅尼經計一法中出無量義南方滿願補陀洛海會五部諸尊等弘誓力方位及威儀形色執持三摩耶幖幟曼荼羅儀軌』(大正1067; [SAT])という、やけに長いタイトルの密教文献 (通称『摂無礙経』or『補陀落海儀軌』)で、その中に「童目天女」なるものが出てくる ことだけ、何とか見つけることができました。

 望月仏教大辞典によればこの通称『摂無礙経』は

「金剛界五部の諸尊並に千手千眼観世音菩薩の 大曼荼羅諸尊の威儀形色を説けるもの。‥(中略)‥第五院に四摂菩薩及び 観音三十三化身等の四十尊を挙げ、各其の威儀形色等を説き」
‥という感じのお経みたいです。 つまり、マンダラ内で表現される観音さまの三十三分身を列挙して、 そのそれぞれの姿がどのような姿で描かれるかを述べてる感じの文献ですね。 マンダラ作成者用の虎の巻、的な感じなんでしょうか(よくわかりません)。

[Table of Contents]

摂無礙経の記述は

実際に「摂無礙経」 [SAT] を見てみると‥

T1067_.20.0134c09: 北門佛身 (01)
T1067_.20.0136b09: 東門南婆羅門身 (14)
T1067_.20.0136b12: 次摩睺羅伽身 (32)
T1067_.20.0136b15: 次聲聞身 (03)
T1067_.20.0136b18: 次比丘尼身 (16)
T1067_.20.0136b21: 東門比丘身 (15)
T1067_.20.0136b24: 次緊那羅王身 (31)
T1067_.20.0136b27: 次毘沙門身 (09)
T1067_.20.0136c03: 次宰官身 (13)
T1067_.20.0136c06: 南門東優婆塞身 (17)
T1067_.20.0136c09: 次非人身 (20)
T1067_.20.0136c12: 次童目天女 (22)
T1067_.20.0136c16: 次小王身 (10)
T1067_.20.0136c19: 南門西優婆夷身 (18)
T1067_.20.0136c22: 次龍身 (26)
T1067_.20.0136c25: 次大自在天身 (07)
T1067_.20.0137a01: 次婦女身 (21)
T1067_.20.0137a04: 西門南天身 (25)
T1067_.20.0137a07: 次夜叉身 (27)
T1067_.20.0137a10: 次辟支佛身 (02)
T1067_.20.0137a13: 次童女身 (24)
T1067_.20.0137a16: 西門北人身 (19)
T1067_.20.0137a19: 次乾闥婆身 (28)
T1067_.20.0137a24: 次執金剛身 (33)
T1067_.20.0137a29: 次童男身 (23)
T1067_.20.0137b03: 北門東天大將軍身 (08)
T1067_.20.0137b06: 次迦樓羅身 (30)
T1067_.20.0137b10: 次大梵王身 (04)
T1067_.20.0137b19: 次長者身 (11)
T1067_.20.0137b22: 北門西自在天身 (06)
T1067_.20.0137b25: 次阿修羅身 (29)
T1067_.20.0137c01: 次帝釋身 (05)
T1067_.20.0137c07: 次居士身 (12)
T1067_.20.0137c10: 以上三十三身安住月輪中大蓮華葉座
上記、「〜身」と書かれてる三十三項目だけ(プラス童目天女。あれ? これは「身」 つかないの??)抜き出したのち、各項目に対応するWikipediaでの番号を私が カッコ付きで行末に追記したものです。

[Table of Contents]

三十三身体の順番がバラバラ?!

ここで問題となっている、 『妙法蓮華経』とWikipediaの内容が違ってる 19〜22 の4項目は赤で示しています。

 さてこの各項目、Wikipedia で紹介されてるような順番で並んで出てくると思ったら 実はそれが大間違いで、順序が驚くほどにバラバラです。 乱数使って散らしたのか? と思っちゃうくらいです。 また「仏身」だけ別格なんでしょうね。仏身だけ他の項目とは かなり離れた場所に出てきます。各行の行頭に書かれた数字の末尾のほうの 「20.0134c09」というのは「大正大蔵経の第20巻の134ページのc段(下段)の09行目」を 示しているんですけど、これを見ると「仏身」が134ページc段、他の32項目が 136ページのb段から137ページのc段にかけて書かれていることがわかりますので、 「仏身だけずいぶん離れた場所にあるなあ」ということがわかると思います。 図像にすると、このへんキレイに納まったりするんでしょうか。 あるいは、順番について述べた 何か別なテキストがあったりするんでしょうか。そのへんは現状では不明です。 ‥‥しかし「童目天女」って何? 私、Wikipedia ではじめて見たんですけど‥

[Table of Contents]

「人身」と「非人身」は入れる? 入れない?

さらに気になる点として、Wikipedia の記述、そしてそれと内容が対応してるっぽい 『摂無礙経』では「(19)人身(じんしん)、(20)非人身(ひじんしん)」が 三十三身に含まれていることがあります。

 「人」と「非人」という文字は、じつは『妙法蓮華経』の当該箇所にも 存在しています。

應以 天龍夜叉乾闥婆阿修羅迦樓羅緊那羅摩睺 羅伽人非人等身得度者。即皆現之而爲説 法。(妙法蓮華経 57b15--57b17[SAT])
[大雑把訳] (25)天、(26)龍、(27)夜叉、(28)乾闥婆、(29)阿修羅、(30)迦樓羅、 (31)緊那羅、(32)摩睺羅伽といった 人や人でないもの(非人)どものため、 それぞれの姿で説法される。(対応: 岩波文庫p.下256)

 しかし「人」「非人」は上の大雑把訳のように「‥といった人や人でないもの」という感じ、 その前に列挙された項目を総括する感じに解釈され、 三十三身には入れないのが普通のはずです。というか、これら二つを加えてしまうと 「三十五身」になってしまいキリが悪くなるのを嫌って、 わざわざ総括的な感じに解釈したんでしょうか。

 でも Wikipedia とか 『摂無礙経』では「(19)人身(じんしん)、(20)非人身(ひじんしん)」も 三十三身に入れてますよね。何なんだろ?? ‥‥んー。 現行の『妙法蓮華経』とは別系統のテキストに基づいていて、さらに 「三十三」というキリのよい数に合わせるための やりくりの痕跡??


でもなんか、肝心の話が抜けてないか? ‥という話へ 続きます。
[次] [付録] なぜ「三十三」? (3)