地蔵和讃と西院河原和讃
[Table of Contents]賽の河原和讃⊂地蔵和讃
賽の河原について。その出典はどこなのか? という話からすると、
望月仏教大辞典はこう書いています:
地蔵和讃、賽の河原和讃等に其の相状を
記述せり。‥(略)‥地蔵和讃に基き、更に其の意を詳述したるものを賽の河原和讃とす。
つまり、こんな感じみたいですね。
--- まず、地蔵様を賛嘆する「地蔵和讃」というものがある、と。
そして地蔵和讃群の中でも、とくに子ども、賽の河原について語るものが「賽の河原和讃」と
いう感じのようです。
ちなみに「西の河原」じゃない地蔵和讃とはどんな感じか。短いものを一つ紹介すると、
こんな感じのようです(真鍋1969,p.187.3番目のもの):
地蔵和讃
八万四千の罪のうみ 万業罪障の水ふかし
四八の波はなを高く 千たび百度沈む身を
地蔵大士は只ひとり 臓腑の中に入り充て
菩提涅槃の花さかし 薩婆若の果を興なん
皆ききたまへ誰々も 二仏の間の迷子を
救はん大悲の恩徳を 南無阿弥陀仏と称べし
子どものため‥というより、まずは生死の縛りから逃れられない自分たちのため、という
感じの和讃ですね。
[Table of Contents]賽の河原和讃は10種類以上
和讃を、仏教の いわゆる「お経」と同等に考える人もいるかもしれませんが、
実のところ「お経」とは ずいぶん扱いが違っています。なんで違うか? 何が違うか?
‥要するに「お経は、仏様の言行録、金言集」ということです。
仏様の金言集だから、勝手に細部を変更するなんて、とんでもない! ‥という話になるため、
その継承や伝承はかなり慎重に行なわれてきたはずです。反対に「和讃」というのは、
「お経」ほどは 継承や伝承に気を遣われなかったみたいです。だから
全国あちこちに、さまざまな種類の亜流? 類似品? が伝えられ、
その多くは忘却され、一部が現代まで残った。‥だいたい、そんな感じになりそうです。
真鍋広済(1969)『地蔵菩薩の研究』三密堂書店(初版が1960.参照したのが第二版1969),
pp.171--250. によると、
「地蔵和讃」という名前の和讃が、真鍋1969が確認できたものだけでも
35種類存在しているようです。そしてそのうち「西院河原」「賽河原」的な
タイトルがついたものは9種類、紹介されています
(そして、その8番目が、
ここ [URL]で紹介しているもの。真鍋1969の「地蔵和讃」全体では14番目,p.225)
[*1]。
それ以外にも
「地蔵尊和讃」という題ながら中身は「西院河原」的なものも一つ
存在しており(真鍋1969の13番目)、合計10種類の「西院河原」的な和讃が、
真鍋1969内に存在していることがわかります。
ちなみに、この10種類の和讃を見てみると、そのすべてに
「一重積んでは‥」「二重積んでは‥」という例の表現を入れています。
西院河原和讃の中でも
やはりこの部分が、多くの人にとっては いちばん心にグッと来るところなんでしょうね。
真鍋1969以外の本を見ると、「西院河原」和讃の種類は10種類よりもっと多いみたいです。
「地蔵和讃」には多くの種類があり、「さいのかわら」と題されたものだけでも、
十種以上の異本が数えられるのだが、それらは、口誦芸の常としてさまざまなヴァリエーションを
伴いながらも、五つの基本要素だけはきっちりと埋め込んで、この地獄の定型化に力を貸している
(本田和子(1985)「「賽の河原」考」(小松和彦編(2001)『怪異の民俗学8 境界』;『わたしたちの江戸』1985 からの再録らしい) p.202)
この本田1985は「十種以上」とありますね。「以上」というのはちょっと微妙ではありますけど、
でも真鍋1969が紹介している10種類よりは多いということですよね、やっぱ。
[Table of Contents]賽河原は昔も今も
以上のことから、まず地蔵菩薩を讃える「地蔵和讃」という大きなグループがあること。
そして、とくにその中でも西院河原・子供の冥福 に特化した
「西院(賽)河原(地蔵)和讃」と呼ばれる和讃群(どれがいちばん正当かは不明)が、
これもやっぱり大量にあること。
そしてその西院河原に特化したグループが、
たぶん昔も、そして現代であってもとくに水子供養などとの絡みで
いちばん目立ってる、という感じのようです。
これってやっぱ賽河原和讃というのが、独特で強烈な存在感をもって
私たちの心に迫ってくるものだから。だから
人々のあいだで生き続けている ということですよね。---昔も、今も。
註
- *註1
-
真鍋1969,pp.171--250. で紹介されている地蔵和讃群のタイトルだけを並べるとこんな感じです:
[ 延命地蔵菩薩和讃(1:p.171) /
地蔵和讃(2:p.175) /
地蔵和讃(3:p.187) /
地蔵尊孝養和讃(4:p.187) /
十王和讃(5:p.193) /
西の河原地蔵和讃(6:p.198) /
西の河原地蔵和讃(7:p.203) /
西の河原地蔵和讃(8:p.207) /
西院河原地蔵和讃(9:p.211) /
さいの河原の和讃(10:p.214) /
西の河原地蔵和讃(11:p.217) /
西の河原地蔵和讃(12:p.220) /
地蔵尊和讃(13:p.223) /
西院河原地蔵和讃(14:p.225) /
西の河原の地蔵菩薩和讃(15:p.227) /
岩船地蔵菩薩和讃(16:p.228) /
岩船地蔵和讃(17:p.231) /
六波羅堂鬘掛地蔵和讃(18:p.231) /
金剛山矢田寺地蔵菩薩和讃(19:p.233) /
まま子和讃(20:p.235) /
火ぶせ祈祷讃(21:p.237) /
念仏和讃(22:p.239) /
寒念仏の讃(23:p.241) /
地蔵歎偈(24:p.243) /
極楽六時讃(25:p.243) /
浄土十楽和讃(26:p.245) /
浄土十楽和讃(27:p.246) /
二十五菩薩和讃(28:p.247) /
二十五菩薩和讃(29:p.247) /
役行者神変大菩薩和讃(30:p.248) /
善光寺和讃(31:p.248) /
善光寺和讃(32:p.248) /
苅萱道心石童丸和讃(下)(33:p.249) /
血盆経和讃(34:p.249) /
弘法大師いろは和讃(35:p.249) ] ‥地蔵菩薩が主役のものだけでなく、
地蔵菩薩が言及されているものまで幅広く含まれてますので、結果、
これほどの数になったと思われます。しかしよく集めましたね。すごい。