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日本の民間伝承にみる外道

日本の民俗にみる「外道」の用例です。といいつつ、ちょっと用例が少ない‥


[前] 中国地方における「外道」

山口県における「外道」

詳細についてはまだよくわからないんですが、 とある本に、こんな記述があるのを見つけましたので、紹介します。

まず私が参照している書物の出典情報を以下に。

岩根保重. 「山口県地方」, 『防長民族』 2, 1953. (『日本民俗文化資料集成』 7, pp. 464--465, 三一書房, 1990)
山口県における憑き物関連の報告文書(1953(昭和28))ですね。

[p.464a] 本年の二月、県下の佐波郡和田村で、村人達から「外道つき」 の家筋として特別扱いをされるというので、山口法務局に 人権蹂躙として訴え出たものがあったことから、県下の各地に なお根強くのこっているこの「憑物」の迷信が社会問題と して新聞にも取上げられ、世人の注意を惹いた。

この憑き物には外道のほか、犬神、トウビョウ、狐、狸、蛇、 猫などいろいろあって、四国・中国・九州地方にひろく 信ぜられているものであるが、これらの地方にどこでもある という訳でもなく、山口県でも下関方面ではあまり聞かない ようである。

近年全般的にはこの種迷信が影をひそめてきているが、なお農山村 などではかなり根強く残っている地方もあって、特に婚姻の 場合などに障害を与えているところが多い。全県的に十分な 調査が行われた訳ではないが、県下でこれらの存している地方としては 次の各地が報告されている。

  • . . . (省略) [p.464b]
  • . . . (省略)

外道とか犬神というのは、いずれも鼠位の小さい動物で、 その憑いている家筋の人達にしか見えず、そして憑いている人に 使われ或はその人の意のあるところを忖託して他人に禍をする と信ぜられて、一般から甚だしく敬遠せられるのである。これは 代々その家の女を通じて伝わり、もしこの家筋の女を嫁に 貰うと、貰った家も外道筋或は犬神筋になるという。

この家筋の者から何か怨みを受けたとき、或は嫉妬されたり羨望 されたりした場合、その他偶然の機会にも憑かれることも [p.465a] ある。 単に人間に憑くだけではく、屡屡食物にも憑くのであって、 例えばすしとか団子などを近所に贈るため持参の途中、 犬神筋の者に見られてその中身を察知されると、その食物は 一種の水分ある粘液を出して変味し、食べられなくなり、 これを犬神がお初穂をなめたといっている。それを免れる ためには先きに犬神筋の家にも贈っておけば安全であるという ことで羨望によって食物にも憑く訳である。人間に憑くと、 その人はてんかんのような症状を呈したり、急性神経痛の ような肉体的苦痛を感じたり、或は気が狂って犬のまねを したりし、一旦憑かれると容易に退散しない。そしてその 取憑かれた人の口を藉りて、取憑いた理由を叫ばしたりするが、 その場合は加持祈祷を依頼し、護符聖水をいただいてその本人に 服用せしめたり、または振り注いで退散せしめる。普通の医薬 では治癒しないと信ぜられているのである。

この迷信発生の原因としては、古く動物霊などを通じて神の 神託を受けるような特殊信仰を業としていた家筋が、 仏教などの普及により、一般社会とは漸次遊離し、又畏敬され、 不安がられて忌み嫌われるようになったのではないかと 言われている。とにかくこのような観念の底流が文化度の低い 社会では、人心に強く影きょうを与えて、一種の精神病狂疾とも いうべき状態を発生せしめるのであって、とるに足らない迷信である。

 仏教の普及によって、 加持祈祷をおこなう「行者」との勢力争いに敗れた土着宗教系の家系の人たちが、 やがて「外道持ち」として忌み嫌われるようになった、 という分析がなされてますね。

 ‥でも、どうなんでしょうね? 仏教の普及によって土着宗教が敗れた‥なんてのは、 かなり昔の話になると思うんですけどね。 ‥でもそうか。土着宗教が外来宗教に負けて、 敗者なので被差別な地位にまで落とされて、 (その子孫は宗教家としては廃業したけど) 落とされた地位が そのまま身分とか周囲の評判として定着しちゃって現代まで来てしまった。 ‥というのであれば、まあ、あり得るかも。 こういう差別絡みの話って、みんなが あの手この手を使って 解消しようとしても根強く残りますからねー。 しかも中国地方といえば、金田一耕助さんがよく活躍する場所という印象があり 「なんかドロドロしてるなー」と思ってしまうんですけど。 やっぱりそうか! ‥という感じ?

 石塚『日本の憑きもの』,1959, pp.86--87.の 「憑きもの筋の残留量の分布 (試案)」を見てみますと、 中国地方では出雲のあたりで憑物筋が非常に多く、 出雲から離れるほど憑物筋の割合が少なくなっていくのが 一目瞭然なこともこの分析結果と関係がありそうです。

 そして、おそらく憑物筋の割合が比較的少ない場所に なればなるほど(希少価値が高まるから)憑物筋に対する排他的感情が強くなって いくだろうことは容易に推測できますので、その結果、 「外道」の本場である広島・島根ではなく、 そこからちょっと離れた山口県で「外道憑き」が 裁判沙汰にまで発展してしまったんだろうなあ、なんて 思ったりするわけです。

[次] 石塚(1959)『日本の憑きもの』