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餓鬼について

[佛説救抜焔口餓鬼陀羅尼經]に 端を発して作成している「めも」です。


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漢字の「鬼」

前のページで 「「鬼」は亡者(死者)のことである。‥(略)‥ 漢字の「鬼」もまた死者の魂を意味する」(定方晟(1973)『須弥山と極楽』,p.81) という 話を紹介しました。このへんについて、とくに中国の「鬼」についてちょっと 調べてみました。

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古代中国の「鬼」

漢代以前(?)の 中国における「鬼」について。『孝経』の中に以下:

宗廟致敬、鬼神著矣
(加地訳) 宗廟において、敬意をもってまごころを尽くして祭祀すれば、[必ず] 祖霊が現出なさるのだ (加地伸行(2007)『孝経<全訳註>』(大文字版),講談社学術文庫, p.99)
このような文があります。 ここで「鬼神」は「祖霊(祖先の霊魂)」と解釈されていますが、これは宋代の注釈書(孝経正義(11c初?))にそう 書いてるらしい(加地2007,p.101)ですけど、たしかに文脈的にもそれ以外の解釈は難しそうです。

 我々はどうしても「鬼」と聞くといろんな否定的なニュアンスをそこに感じてしまうんですけど、 孝経のような用例を見てみると、 元は単に「亡き人の霊魂」を示す単語であったんでしょうね。

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文字「鬼」そもそも

というか「鬼」という文字の起源がそもそも「亡き人の霊魂」ということみたいです。曰:

もともと、人の死後の姿を鬼という。幽霊であるが、鬼という文字は人が死んでその体が次第に腐 爛して行く姿を示す会意文字である。 (山田利明(2000)「冥界と地下世界の形成」『死後の世界--インド・中国・日本の冥界信仰』,p.96)
んで、その「もともと」を右図にまとめてみました。「鬼」という字はもともと 「毛髪つき頭蓋骨」「肢体」「「キ」音をあらわす音符」の集合体ということですので、 字源的にも「亡き人の霊魂」というのが最もふさわしい、といえそうです。

 さらに頭蓋骨と霊魂との関係について以下:

殷の時代には死者の頭蓋骨がよりしろであり、死者 の霊は死者の頭蓋骨に宿るものとして考えられたのである。この頭蓋骨を位牌として祖廟に祀ったが、そ の祖先の霊魂を招くのに、祖父の場合は男の孫が、祖母の場合は女の孫がこれを被った。本来の尸と は、頭蓋骨を被ったこの子孫をいうのである。 (山田利明(2000)「冥界と地下世界の形成」『死後の世界--インド・中国・日本の冥界信仰』,p.97)
このような儀式が行われていたらしいです。つまり「鬼」は魂にすぎず形をもたないため、 もしこの世界に出現するとしたなら、自身の生前の頭蓋骨と、それを被った同性の孫という 「憑代」が存在する必要があった、まったくの自力での出現は無理だった、と。 そんな感じで間違いなさそうです。

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鬼=魂は雲のごとく漂う

具体的な「亡き人の霊魂」に関する儒教的なイメージについては、どうやら以下:

空にある雲、あの雲が 魂のイメージなのである」(加地伸行(2011)『沈黙の宗教--儒教』ちくま学芸文庫,p.44)
魂が天上にフワフワと漂っていた (加地2011, p.70)
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こんな感じのようです。まさに雲の如し。 「雲」と「魂」はどちらも「云」というパーツを使っていますが、どうやら 「云」がフワフワした感じのものを表す文字で、それゆえ 「雲」は「雨に関する云」、「魂」は「鬼に関する云」、と。 そんな感じのようです。

 ここで「天上」といっていますが、これについても

魂も魄も、<あの世>ではなくて<この世>にいる。草葉の蔭に、確かに いるのである (加地2011, p.56)
というものだそうです。仏教などでは「天上」というと兜率天など 「この世界とは異なるどこか」をイメージしてしまうんですけど、それとは違うということですよね。 そして、この「死者の魂が、この世界のどこかで フワフワしている」というイメージって、日本の古代の神・魂についてのイメージと なんか重なって見えます。(see.佐藤弘夫(2008)『死者のゆくえ』,岩田書院.p.46)

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悪鬼と餓鬼

中国における「悪鬼」は仏教の餓鬼と何か関係してるのか? ‥という話になると以下:

中国では鬼は死者の霊魂を意味する。子孫によ ってきちんとまつられない霊魂は悪鬼になると考えられた。不慮の死や非業の死をとげた霊魂も悪鬼 となる。そうして世のなかに災厄をもたらす。災厄をふりはらうには悪鬼どもをしりぞけねばならな い。これを劾鬼と呼ぶ。経典中には世にはびこる悪鬼の名が列挙されている。名を知ることが劾鬼の 第一歩である。何者であれ、本当の名を知れば、その者を支配できる。そうした考え方が顕著にうか がえる。 (菊地章太(2012)『道教の世界』講談社選書メチエ520, pp.62--63.)
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どうでしょう。鬼になった人の生前の行いなどはあまり影響してなさそうに感じますよね。 自分を祀る人がいない・死に方がよくない霊魂が悪鬼となって世に災厄をもたらす。‥これらは 餓鬼なんかよりずっと日本の御霊信仰と近い、というかほとんど同じノリじゃね? と 感じてしまいます。

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