[仏説地蔵菩薩発心因縁十王経 (発心因縁十王経、地蔵十王経)]

地蔵十王経について

成都府大聖慈恩寺沙門蔵川述
『仏説地蔵菩薩発心因縁十王経』(12世紀?)
(発心因縁十王経、地蔵十王経)

に関する「めも」です。


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火車(送迎車)

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「責め具」から「送迎車」へ

んで、こうして見てみると、インド仏教の初期経典とされる文献においては、 「火車」とは地獄の中にある責め具の一つにすぎない感じのようです。 これがハイヤーとかタクシーのように、 人が亡くなる時に 地獄から現世にある亡者のご自宅までお迎えにあがるようになるためには、 そこにさらに何かの大きな変化というか、ジャンプアップするための契機というか、 そういうものが必要な感じがしてます。地獄のありかたの設定とか、 人はどうやって地獄に行くのかとか、そのへんの世界観が ある程度「地獄は、ハイヤーとか タクシーみたいなもので行ける」的なものに変わっていかないと、 お迎え的な発想は出てこない気がするんですよ。

 (それと個人的に気になっているのは、人が地獄に行くかどうかというのは基本、 閻魔様の裁決によって決定するはずですよね。でもその裁決の前に地獄の責め道具を 亡者に差し向けるのは なんか矛盾しないのか? 閻魔様の裁決というのは、単なるセレモニー的なものにすぎないのか?? という点ですけど‥。ということはつまり 「火車タクシー」説は「閻魔様による裁き」説とは完全に別系統の伝承ということ? 考えすぎ??)

 そしてその発想というか世界観の変化は、たぶんインドじゃなくて中国、 起源も10世紀くらいじゃないか? という気はしてるんですけど。 つまり、上で紹介した『萬善同歸集』のあたりですよね。‥ただ、 それをどうやって解明すればいいかというのは、ちょっと、難しいですね‥

 ところで。「火車」について、そのものズバリな名前の [ 火車の資料 ] というサイトになんか出典がたくさん出てますので、とりあえずここにメモしておきます。 ‥この用例の中で気になったのが『往生要集』(10世紀)[しおり]で、 これだけ他の出典(12世紀〜)よりもちょっと時代が古いんですよね。ただこの用例 [原典はここ]、『観仏三昧経』からの引用 [引用元はここ] ですから、まあ日本の10世紀の用例としてしまうのは無理があるかな? それと基本、ここで語られるのは責め具としての「火の車」ですよね。 そして同じ火車でも、人をロープでひきずって肉をそぐ『長阿含経』の火車とは、その責め方が全然違ってますね。これたぶん、古代インドから「なんか恐ろしすぎる地獄の大道具」という設定はあったものの、その具体的な中身は 各自の想像に任せてる感じということですよね。 送迎車的な何かには見えないことは確かです。

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十王と火車

十王と火車の関係はどうなのか? について。

 上でも書きましたが、十王経系の文献には ほとんど「火車」は出てきません。 私が確認しているのは 『私聚百因縁集』の10:転輪弥陀(五道転輪王)のところ:

[大雑把訳] きわめて愚痴な者には火車が来現し、牛頭・馬頭・阿防・羅刹に捕まる。 [ 私聚百因縁集(4)十大王 :: [10] 転輪弥陀 ]
ここのところだけです。でも十王図などを見ると、火車は結構描かれてるんですよね‥。

 ここでは2017(平成29)年に東京・京都で行われた「地獄絵ワンダーランド」という展覧会の 図録を使って、そこで紹介されている図版の中で描かれた火車について、 ちょっと見てたんですけど。

 まず中国の南宋時代(12〜13世紀)作とされた図。2つあるうち、一つは(2)初江王、 他方は (3)宗帝王のところで描かれています。やはり十王経に出てこないからでしょうか、 描かれてる王がバラバラで、いかにも取ってつけた感じな存在のように感じます。 それとここでの火車は完全な責め具ですよね。一輪ということもあって人を乗せる風には 全然見えず、かわりに人を殺す気満々に見えます。

 そして日本の江戸時代に描かれたとされる図。4つ見つけましたが、 (4)五官王が2つ。十王とは全然関係ない「(8)阿鼻地獄(無間地獄)」が1つ。残り1つは 「十王を含む地獄」と解説がついていて、確かに名前がよくわからない王の下に 火車が描かれたのがあります。この絵、王のすぐ横に「秤」と「人頭2つ」が描かれていることから、 (4)五官王か(5)閻魔王、しかし同じセットの他の絵にすでに(5)閻魔王があるから、すると 消去法的に(4)五官王かなぁ‥といった感じですかね。つまり江戸時代だと 「火車といえば(4)五官王」という感じなんでしょうか。んー、もうちょっと 用例を集めないと何とも言えないですね。そして火車の形状が人力車風の二輪になってるのも ポイントですね。これだと人が乗ることが意識されてる? そんな気がします。

 あと。ここで不思議なのは、なぜ(4)五官王に火車を結びつけたのか、その根拠ですよね。 南宋時代の絵では(2)初江王か (3)宗帝王、 『私聚百因縁集』では(10)五道転輪王、 地獄だと最凶とされる阿鼻地獄(無間地獄)‥といった感じなので、 なんで(4)五官王と結びつくのか、全然わからない‥

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