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前からその存在は知ってはいたんですけど。 コンビニでたまたまコンビニ版のやつを見かけましたので、収集しました。書誌情報:
平松伸二(2009)『外道坊スペシャル 霊感商人編』日本文芸社.[Table of Contents]
本作品における「外道」。 たぶん主人公ということになるんでしょうが、 悪人を成敗する坊さん、まずこの人が「外道坊」と呼ばれます。 ‥ということは、つまりこの人が「外道」なのか? というと、 そのへんが微妙で。何が微妙かというと、 コンビニ版のアオリにはこんなこと:
こう書いてあるからです。つまり「外道坊」に始末される人たちが「外道」であることは、 たぶん、間違いないんですけど。「外道坊」自身はどうかというと、 たぶん、彼自身はそうではなく、 外道を始末する専門家だから「外道坊」を名乗ってるという ことですよね。餅を扱う業者を「餅屋」と言うのと同じく、外道を扱うから 外道屋、でも坊さんだから「外道屋」じゃなくて「外道坊」のほうが それっぽくね? という感じで。
[Table of Contents]でも話はそう簡単じゃありません。
もっと悪いこと、悪業を積んでしまう前に殺してあげよう、そうすると 本人のダメージが小さくて済むじゃん、と。それは確かに「仏の教えから はずれた道」であるのは確かだと思いますけど、でもそれが「外道」かというと よくわからないですね。あるいは「外道に任せろ」は 「外道坊に任せろ」を一文字省略したとか?
‥ところでこの外道坊、「人の前世を見通す力を持ち」とありますが、 つまりこの作品世界においては輪廻説が採用されているわけです。となると、 恨みを遺して死んでしまった者たちの霊魂は うかうかしてると輪廻転生してしまい、 「恨みを持つもの」としてその姿で留まることは不可能だと思うのですが、そのへん、 どうなっているのかというのは すこし興味がある問題ですけど、 それはどうでもいいですね。
[Table of Contents]さて。ではこの「外道坊」に殺されていく人たちがどう「外道」なのか。 彼らの足跡を追ってみましょう。ここでは「目撃者」のエピソードを紹介します。
オンナのもとに潜伏していた連続殺人犯の鮫津。そいつを逮捕に向かった警察官に、 殺人犯は、自分をかくまってくれていたオンナを人質にして抵抗します。‥たぶん、普通なら 警官たちは殺人犯の要求をのんで、とりあえず 部屋から出て行って、そのかわり潜伏するアパートを完全包囲してしまう策に 出るんじゃないかと思うのですが。 無論、このマンガの警官たちは そんな甘っちょろいことはしません。 どうなったのかというと‥
これ、たぶん殺人犯が「恋人を人質に取ってまで自分は助かりたい、そんな人でなし」 であることを強調するためこんなエピソードを入れたんだろうと思いますけど、 正直ちょっとイマイチというか、功にあせった警官の暴走にしか見えないのが ちょっと残念ですけど。
でも、この殺人犯については、ストーリー全体を見ると、 ちゃんと かなりの「人でなし」として描かれてます。 上で紹介したエピソードでは、警官に誘発されてしまったとはいえ、 この男はオンナを殺してしまうわけですけど。でも基本的にはケロッとしてますし。 自分の部屋にまぎれこんだ虫を殺すように、そのように人を殺す感じの「人でなし」ですね。
つまり、この場合の「外道」は、自分が「したい」と思ったことを忠実にしてしまう系、 傍若無人系ですかね。
[Table of Contents]私が今回参照した 平松伸二(2009)『外道坊スペシャル 霊感商人編』には、上で紹介した「目撃者」以外にも 「霊感商人」「ボクサー王子」の2エピソードが入っています。これらエピソードにおける 「外道」についても簡単に。 [Table of Contents]
「外道」に相当してそうな男が二人出てきます。一人は霊感商人の霊神。 もう一人が、結婚詐欺の天越。天越は霊神の配下かもしれませんが、そのへんは よくわかりません。二人がどうグルになってるかというと、まず、霊神が カモになりそうな不幸女を見つけます。そして いろいろ占って、いろんな霊感商品を 購入させます。カモになる不幸女に選ばれるのは、銀行の預金係が使われるパターンが 多いみたいです。つまり銀行の預金を横領させて大金ゲットだぜ! というやつ。 んで、霊感商品を買わせるダシとして使われる「すてきな出会い」を演出する存在が天越。 天越はそのテクニックなどで不幸女をメロメロにさせて、不幸女から金を 引き出せるだけ引き出したら、あとは不幸女を 自殺に見せかけて始末する、と。
彼らの場合は「目撃者」の傍若無人系とはちょっと違う感じです。 「目撃者」の鮫津の場合、とくに目的がある訳ではなく、 なんとなく、気の向くままに殺してたんですけど。こちらは明確な目的があり、 その「目的のためには手段を選ばない」系ですから。 ただ、どちらも殺人に対する抵抗がまったくない、虫を殺すみたいに人を殺す、といった あたりに共通点はありそうです。
[Table of Contents]気に食わないやつを殺しても構わない、というより、殺さないと気が済まない感じの ボクサー王子。小動物を殺すように、人を殺す。 人でも何でも自在に殺せるように、そのためにボクシングを始めたという王子。 ‥うん。間違いない。あきらかに本作における「外道」は、 殺人への抵抗がないところだ。虫とか小動物を殺すみたいに、 躊躇なく後悔なく人を殺すのが「外道」なんだ。
[Table of Contents]ボクサー王子のエピソードでちょっと気になったのが「ドス黒いオーラ」というやつ(p.352)。 「外道」の全身から出てるみたいですけど‥。これ、「目撃者」のエピソードに出てくる 「人を殺した事がある 人間の独特の目って いうか…… / 目の奥の異様な 光にゾッとしまし たよ……まあ 刑事のカンってヤツ ですけどね!」(p.55) というやつの スピリチュアル的表現? ちょうど「オーラ」というのが流行してた頃だし‥とも 思ったんですけど。
他のページ見ると、被害者の不幸女がどんどん罠にハマっていく様子を 評して「あなたのオーラが 益々ドス黒く なっていく…」(p.241) と外道坊が 言っている場面があって、それを見た感じだと「ドス黒いオーラ」と悪業との 間には とくに何か関係はなさげ‥ いや、そうでもないか。
不幸女がどんどん罠にハマり、霊感商品に貢ぐため銀行の金の横領までやらされる 状況になっている訳で、なので「被害者女性が犯罪に手を染めていく、つまり 悪業が積み重ねられつつある」というのを「オーラが益々ドス黒く」と表現するのは アリか。その場合、「ドス黒いオーラ」というのはつまり「悪業」の スイーツ(笑)的表現という感じなんでしょうか。
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