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観音信仰 (塙選書) [ 速水侑 ] |
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一方、中国では唐代に入っても観音像は追善的造像が中心、密教的護国的な方向へは 発展せず(ただ、現世利益的な信仰はあった。鎌田1997,p.112. あたりで紹介されている 中国での観音説話は、現世利益的な功徳ばかり)。
6世紀の天台大師智顗『摩訶止観』でも、観音様を念じることにより 六道輪廻から脱出できる、というのが観音信仰のキモになっている。実はここで 六道のそれぞれに対して、それぞれ「大悲、大慈、師子無畏、大光普照、天人丈夫、大梵深遠」 という観音様の割当が言及されているが、日本ではそれはほとんど話題にされず。
中国での六道思想の高まりとともに、ついに、中国で 六道のそれぞれと対応させる形で 「六観音」が出現します。これが6世紀。 六人の観音様たちが、それぞれの道の門番になってくださる。‥ と、そんなイメージでしょうか。六観音のお名前は 「大悲、大慈、師子無畏、大光普照、天人丈夫、大梵深遠」ですけど。 残念なことに、これらお名前は日本ではまったく普及しませんでしたね。 「大悲」「大慈」だけは観音様につける形容詞のような感じで 「南無大慈大悲観世音菩薩摩訶薩」の一部に組み込まれてます。
「六道」については [ 餓鬼とは(1)六道の一つ ] もどうぞ。
[Table of Contents]この状況が変わってきたのが10世紀頃。中国で六道思想が大盛り上がり、 地獄の観念がかなり整備され、人々の救苦のツートップとして観音様と地蔵様に 人々の注目が集まっていたことに影響を受けたのか、日本でも源信が『往生要集』を執筆。 これが人々、とくに貴族たちに衝撃を与えたらしい。 六道輪廻から救済してくださる観音様、という強烈な信仰が出てくる。 また六道のそれぞれに法華経一部ずつ合計六部、あるいは阿弥陀経を合計六部を‥などという 感じで、六道のそれぞれに対して仏像や経典をお供えする習俗(どうやら、それで それぞれの世界の入口を塞いで、六道に行けないようにしたかった?)。
中国の天台智顗の時代から500年後。 お待たせしました。10世紀日本で源信が『往生要集』を執筆しますが、 この中で描写された(‥というか「正法念処経」などの抜粋ですけど)「地獄」の有様が、 当時の京都の貴族たちを恐怖のドン底に突き落とします。 貴族たちは強烈な六道信仰を持ち、極楽往生を心底願うようになります。
それはそうと。 速水1970,速水1996を読んで「おお」と思ったんですけど、 「追善」と「来世信仰」は分けて考えた方が話がスッキリしますね。 「追善」は仏教伝来以前からすでに日本に存在していた考え方の影響があるもの、 「来世(六道と極楽)」は仏教伝来以降に生まれた、おそらく仏教思想の 影響によって生まれた世界観、と。
[Table of Contents]六体の観音像をお供え の流れから、日本的な「六観音」が出てくる。六観音の典拠として 中国における上記『摩訶止観』があるが、 そこで言及される「大悲観音」などは日本人には馴染みがなかったからか、 代わりに千手、十一面などの密教的変化観音を六観音に割り当て直した。
この流れのピークに当たるかもしれないのが、1024年の藤原道長の法成寺薬師堂の六観音。 そこでは七道諸国除災(現世利益)の七薬師仏と、六道抜苦(死後救済)の六観音が対置されており、 観音様への現世利益の期待がなくなっている。
なお日本の六観音は、『摩訶止観』の(来世志向な)六道抜苦の構図と (現世利益的な)密教的呪術的変化観音が合体した結果、 来世現世の両方の面倒を見てくださるご存在となる。その結果、11世紀後半になり 貴族たちの来世ブームが一段落すると、観音信仰は再び現世利益の方向に大きく傾く。 その結果、六道抜苦の役割は完全に地蔵様[URL]に取られてしまう。
そんな中、日本でも「六観音」という考え方が出てくるのです。 「六観音」はすでに500年前の中国にもあった設定なんですけど、中国における 六観音様たちの「大慈観音」などのお名前は馴染みがないということで却下し、 代わりに日本国内ではすでに有名だった密教的変化観音を 「六観音」に割り振ったのです。「千手観音」「馬頭観音」などです。それと 本来の観音様、つまりマンガで喩えると「髪が黒いままの孫悟空」とか 「ジェットスクランダーのないマジンガーZ」のような、格別なパワーアップのない 本来の観音様も本家(?)「聖観音」として六観音入りします。
ちなみに日本的六観音は以下:
Wikipedia見ると、人道の「変化観音」のところ、 真言宗では准胝観音、 天台宗では不空羂索観音、と。そんな感じで違いがあるみたいです。
変化観音 対応する六道 聖観音 地獄道 千手観音 餓鬼道 馬頭観音 畜生道 十一面観音 修羅道 准胝観音 or
不空羂索観音人道 如意輪観音 天道
また。それぞれの観音さまと、六道のそれぞれの間の関係については、
言ってしまえば日本独自で「なんとなく、割り当ててみた」感じですから、
その対応に深い理由はありません。あったとしても後代のこじつけです(と
断言しちゃっていいのかな?^^;
)。
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