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現代日本における外道ども

現代日本における「外道」の用例で、気付いたものを集めてみました。

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Comic::外道の書(2001)

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はじめに

連載は2000年らしいんですけど。以下のコミックス版を参照しましたので 2001年の作品としておきます:

井田辰彦(2001)『外道の書』講談社ヤンマガKCスペシャル252 (全1巻).

ストーリー的には、まあ、ドラゴンボールですね。 本作におけるドラゴンボールが「書物」というやつ。 それを12冊集めて秘儀を行なうと、なんかシェンロン(神龍) みたいな役割の「一つ目」が出てくる、と。 んで、この「書物」というやつが、最初から書物として存在する訳じゃなくて、 何かの条件にあう人間を書物にしていく。書物になった人間は、 なんか「マスター」の命令どおりに動かすこともできるし、なんかわからないけど 超自然的な力を自在に使える。‥だいたいそんな枠組です。 でもけっこうな力作ですね。作者の人の熱意を感じました。

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外道?

本ページの趣旨的にいちばん問題になるのは、やっぱ「どのへんがどう外道か」という ことなんですけど。これがなかなか難しい。私の見落としがない限り、 作中に「外道」という言葉はほとんど出てきません。出てくるのは第一話の冒頭の以下:

「扉を開かんとする者よ けっして油断することなかれ それは真紅の花びらと 虚無の微笑をもって お前の背後からやってくる 『外道の書』1巻 3章 25段より (p.7)
「その本が いつ 誰の手で 書かれたのか 誰も知らない / 魔術師が 悪魔を呼び出して 書かせたのだとも 人類が誕生する 以前からあったとも いわれている」(p.8)
でもこの「外道の書」というのは何なんでしょう?

 ‥私は最初、その、集められる12の書物、 つまり人間が書物化されたその書物のことかと思っていたんですけど。 読み返してみると、それは間違いなことに気付きました。 なぜならあの人間書物、要するにそれを所有することだけが重視されていて、 その中に何が書かれているかについては「マスター」も全然興味なさげに見えます。 なんかノリとしてはウルトラセブンのカプセル怪獣(古ッ!)で、 それがカプセルじゃなくて書物の形をしてるだけという感じです。 人間が書物になるときの様子を見ると、 なんか文字らしいものが顔など全身にびっしり書き込まれた状態になってますが、 それは単に「だって書物だから、字くらい書いてあるでしょ」程度のものですよね。

 ‥と思って読み返してたら。一度だけ「外道の書」ぽいものが描かれてました。

「え‥‥ / と // (なんかの呪文)」 (p.88)
ここで「マスター」が中身を読み上げてる本、これが「外道の書」なんですかね。 床に置かれて「ドクン」とか言ってる人間書物とはデザインが 違ってますから、人間書物ではない、まったく別種の書物ですよね。 でもこの書物はもっとクローズアップすべきではないかとも思うのですが、 ‥‥まあ、いろいろあったんでしょうね。ひょっとして「外道の書」という タイトルだけ先に決まってた とかでしょうか‥なんて邪推をしてしまいそうになります。

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つまり、ここでの外道は

作品全体から受けた印象ですが、あんまり詳しくないのでアレなんですけど。 「マスター」が行なう秘儀って、かなり異教的秘教的邪教黒魔術的なイメージに 見えます。

作中あちこちに出てきますけど、「ダビデの星」がしっかりと描かれています (なお、左側図の掌の「ダビデの星 featuring with 一つ目」印なんですけど。 この後、この人は全身にびっしりと文字が書かれた状態になったのち人間書物化して しまうのですが。全身にびっしりと文字が書かれた 状況になったとき、この掌の部分はどんなだったのか。やっぱり、 他の文字よりも大きな「ダビデの星」が描かれているのか。そのへん ちょっと興味は ありますけど、残念ながら描写されていません‥)。

また

この前転生したのは ドイツだった‥‥ / 強大な権力と 大量の血によって もう少しで全巻  集められるところ だったけどね // ちょっとハデに やりすぎた‥‥」(p.197)
‥と、 「マスター」の前世がたぶんヒトラーであったことが暗示されています。 このへんでかなりヨーロッパ的、キリスト教徒から見た異教邪教黒魔術的なイメージが ベースにあるんだろうと思います。南アジア東アジア的な要素は、まったくありません。
「契約は 成立した ‥‥ / お前を 正式な 所有者と 認める‥‥」 (p.235)
それと、このシェンロン(?)の一つ目と、あと「契約」という言葉も(わざわざ)使っています。 ダビデの星ときて、一つ目ですからね。ユダヤとフリーメーソン。 これであと「666」があれば、ありがちなユダヤ陰謀論に行ってしまいそうですけど。 でも個人的には、まさか「外道」からフリーメーソン系に行くとは‥ というのがちょっと新鮮でした (^o^)

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外道は、アウトサイダー?

ユダヤとかフリーメーソンとかいう単語が出てきたところで、急に気になったことがあります。 それは、 マンガの最後のページをめくったその後、p.247 に書かれていた、こんなこと:

外道の書
THE BOOK OF OUTSIDER
まあ「外道」をどう訳すかに困って "outsider" という訳語に、 とりあえず、しておいた。‥というのだと思いますけど。んー。 この "outsider" という語、辞書を引くとこんな感じの意味です。
out-sid-er (名詞)
1 門外漢, 部外者, 局外者, 第三者.
2 勝ち目のない馬 [人, チーム]; ダークホース.
3 (略式) 下品な人.
(MacOS 付属の英和辞典より; 用例などは省略)
outsider (noun)
1. a person who does not belong to a particular organization or profession.
■ a person who is not accepted by or who isolates themselves from society.
2. a competitor, applicant, etc. thought to have little chance of success: the winner was Beech Road, a ftfty-to-one outsider | he started as a rank outsider.
(Oxford Dictionary of English (ODE) (2nd ed.) 2005 より)
辞書を2つ紹介しましたが、どちらもほぼ同じ内容ですね。 「ある特定の組織に属さない、いわゆる『よそ者』」‥これが「外道」の訳語として適切かと言われると、 正直ちょっと違うくね? 「外道」には「外道」どもの組織があるんじゃねえの普通? と思ってしまうのですが。 この "outsider" という語、じつはヨーロッパ社会におけるユダヤ人をイメージすると なんか妙にシックリ来るんですよね。キリスト教徒ではないから、ヨーロッパ社会の中にいながら、 ヨーロッパ社会には決して受け入れられなかった人たち。ヨーロッパに住むようになってから 500年たっても、1000年たっても、2000年たっても ずーーっと「よそもの」とされ続けた人たち。 そのイメージが、本書における「外道」のイメージなんでしょうか。

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今後の課題

 あと気になったことがあって。

 p.247 の末尾にこんなことが:

SPECIAL THANKS TO
ABDOL ELHAZZARED
"ABDOL ELHAZZARED" ‥ちょっと何だかわからないんですけど、 このへん?なんですかね。 これが本作のアイデアに何らかの影響を与えたんではないかとも思われますので、 正直ちょっと気になるんですけど。でもラヴクラフト系はまったく知識がないですので、 とりあえず保留にしておきます。

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