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Who knows what a 導師 is?

「グル」の訳語としてよく使われる「導師」という語について。


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Beatles(1970) "Across The Universe"

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Jai guru deva om..

Beatles というロックグループが1969年に出した "Across The Universe" という曲があるんですけど、その歌詞にこうあります:

Jai Guru Deva Om.. Nothing is going to change my world.
[大雑把訳] Jai guru deva om。何によっても我が世界は変わらない。

 ‥ビートルズ全体がインド的思考にドップリはまってた時期の作品ということで、 インド宗教的な「聖なるもの」として "jai guru deva om" と言われている。 ‥まあ、そんな感じの歌詞なんですけど。 その中に、このページで注目している「guru」が含まれています。 1970年頃の日本人は、それをどう訳してたんでしょう??

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落流訳、ちょっと やりすぎ

 ということで、当時のレコード、いわゆる「青盤」(1973)とよばれるレコードにある 日本語訳詩を見てみたところ。 「落流 鳥」さんという方が、こんな感じの訳語を付けておられました:

a)
エホヴァの神 ヒンズー教の導師 創造の神
貴方達はこの僕の何?
僕はもう一人で生きていけます
この穏やかな僕の心の大地は
なにも変えられないのです

b)
エホヴァの神 ヒンズー教の導師 そして創造の神
僕はもう一人で生きていけます
想像すべてが永遠の息吹に乗ったこの旅人に
神々よ 貴方達の助けはいりません
この僕の世界はなにも変えられないのです
‥‥言葉がずいぶん増えてる‥。

 まず、どう見ても翻訳とはいえない、独自の言葉がかなり追加されている点については 正直ちょっと微妙なところがあります。 あきらかに説明過多、やりすぎ なんですけど、でもたぶんこれは歌詞の内容がわかりにくい、 歌詞の和訳は 歌詞の中身を理解しやすくするために添付するはずのものなのに、 単に直訳しただけでは訳わからん、これでは和訳をつけた意味が全然ないじゃん!! ‥という ことを危惧した結果かと思うと、ちょっと非難しにくいかも‥。

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ごめん。Jaiがわからない‥

 そして問題の "Jai guru deva om" についてなんですけど。 ヒンドゥー語があまりわからないので、Jai の意味がわからない‥(-_-) Wikipedia などを見ると この部分について

「我らが導師、神に勝利あれ」(神に感謝を)の意である。 [Wikipedia]
‥このように書かれてますので、ということは "Jai" って動詞なんでしょうか。 サンスクリットの √ji 由来の語だというのはわかるので、 だいたいそういう意味だろうというのはわかるんですけど。

 ちなみに流落さん訳では Jai は「エホヴァの神」となってますけど。 それって、ユダヤ教というか旧約聖書の神様[Wikipedia]じゃないですか。 "Jah"と 混同してしまったのでしょうか。残念ながら、それは間違いとしか言いようがないです。

 ちなみにこの "Across The Universe" という曲は "Let It Be" というアルバム(1970)に収録されていたんですけど。 そのアルバムについていた訳詞はこんな感じ:

何ものも 私の世界を変えることはできない (山本安見訳)
‥呪文部分は無視されてますね。 また "Let It Be" に収録されたのとは 別バージョン(バードバージョン)を収録した "Past Masters Volume Two (1988)" というアルバムにおける 訳詞はこんな感じ:
Jai Guru De Va Om
何ものも 私の世界を変えることはできない (山本安見訳)
たしかにジョンの歌い方では de と va が別であるようにも聞こえますので、 それが反映されたんでしょうか。 でも "Jai guru deva om." を訳さずそのまま、というのは 正しい判断だと思います。だって決まり文句の呪文風に使ってる言葉ですからね。 いわゆる「陀羅尼」と同じと考えれば、ヘタに訳すと 呪文の力が薄れる!

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グルは‥

 ただ本ページの文脈的には、とりあえず「落流さん訳で guru は『ヒンズー教の導師』と 訳されてるなあ、そうか、1973年だとすでに『導師』と訳されてるんだなあ」 ということがわかることが 大事ですよね。とりあえず、そのことは確認できました。

(since 1999)

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T.Rex(1972) "Metal Guru"

あと、すぐに思い浮かぶ guru といえば T.Rex (1972) の Metal Guru という曲もありました。これは日本では「メタル・グゥルー」という名前になっていて、 歌詞カードの訳などにもたしか「メタル・グゥルー」と書かれていて 訳語は付けられてなかった記憶がうっすらとあります。

 ‥‥つか、Metal Guru が発表された1972年はまだ guru を「グル」と書く、ということさえ 一般化してなかったんですね。「グゥルー」という表現に、かなりの苦労の跡を感じます。 何ですかね。「何じゃこりゃ?!」と思ったレコード会社の人が、 マークボランの曲中での発音を聞いて「何だかよくわからんがマークが 『メダグゥルー』と言ってるからきっと『グゥルー』と呼ばれる何かなんだろ」と 解釈したってことなんでしょうか。‥でも、ということはつまり、1972年の段階では guru という単語は全然定着してなかったということになる訳ですけど。

 ちなみに "Metal Guru" は 1972年発表で、それって 上記ビートルズの "Across The Universe"(1969)より 3年も後のことになるんですけど。‥‥でもアレか。 "Across The Universe" の guru に 落流さんが「ヒンズー教の導師」という訳語をつけたのは 『青盤』が発売された1973年のことですから、そういう点では "Metal Guru" のほうがちょっと早いのか‥。

 ちなみに。"Metal Guru" という語は当時どう解釈されていたか、に ついてですけど。  残念ながら、わかりません。いちおう、アルバム "The Slider" の ライナーノーツ(1989頃?)見てみたんですけど、そこにある高橋健太郎氏の解説:

「メタル・グゥルー」は歌詞カードを見れば、 本当にたわいのない言葉遊びだけの曲だ。し かし、その3分足らずの曲の中で、マーク・ ボランはポップ・ミュージックの真実を語っ ているようにすら、僕には思えてしまう。マ ーク・ボランはフランスで魔法使いと暮らし、 魔術を学んだことがあるという話があるが、 確かに彼は何かの呪文をかけるようにして、 ポップ・ミュージックの持つ魔術的なパワー を操っていた。そんな気がしてならないのだ。 (p.5a)
‥ここに「マ ーク・ボランはフランスで魔法使いと暮らし、 魔術を学んだことがあるという話があるが、 確かに彼は何かの呪文をかけるようにして、 ポップ・ミュージックの持つ魔術的なパワー を操っていた」とありますけど。 呪文、魔術、魔法使い、といった単語が出てくるところから、 「導師」というより魔法使い、というか 「ミスター念力」(1968?)的なイメージは あったかもしれませんね。

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