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よいこのための 世尊釈迦牟尼如来応供等正覚者 ものがたり


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[番外編] せそん、らんかーとう で だいかつやく

(ディーパヴァンサ 1.45-81 をラフな意訳にしたものです)

世尊は超自然的な目で世界をくまなく観察なさいました。
欲望を完全になくされた方は、ランカー島に目をお止めになられました。(45)

そのときのランカー島は恐怖で覆われているといった有様でした。
ムチャクチャ狂暴で血をすすって生きているヤクシャとか、(46)
さらに狂暴で悪意のカタマリといった風情の吸血鬼ども、
それ以外にも欲望のまま生きているような魔物どもがタムロしていました。(47)

「ありゃひどいな。私自身があの島まで行って、
あの魔物どもを駆逐し、人間が安心して住めるようにしてやらねば」(48)
こうお考えになられた世尊は、ふい、と空中に浮き上がられると、
そのままジャンブディーパ(インド)からランカー島まで到達なさいました。(49)

世尊はヤクシャどもがタムロしている場所の、その上空に出現なさり、
結跏趺坐の姿勢をおとりになって静止なさいました。(50)
ヤクシャどもはその世尊のお姿を見つけましたが、
相手がまさか「暴れん坊将軍」、もとい、ブッダだとは夢にも思わず、
せいぜい新参者の魔物くらいにしか思いませんでした。(51)

世尊は暝想の状態にお入りになられ、暝想を終えられると、(52,53)
超自然的なパワーを発揮なさいました。
一瞬にして、厚い雲が辺りをおおい、冷たい風が吹きだしました。(54)

魔物どもの嘆きをきいて、世尊はこう仰せになりました。

「そうか、寒いか。ワシには超自然的な力がある。
そこにワシがすわる場所さえ用意してくれるなら、
この寒さを吹き飛ばすほどの熱を発することもできるが、どうする」(55)

ヤクシャどもは答えました。

「もし本当にそんなことができるんだったら、
どこでも好きなところに座っていいから、
この寒さを何とかしてくれ。みんながおまえの条件をのんだ」(56)

「よし、キサマらがそこまでお願いするなら、
望みどおり、熱い思いをさせてやる」(57)

その瞬間、世尊がおすわりになっていた座布団(!)が、
真夏の、さらに真昼のときの太陽のように、熱くなりだしました。(58)
世尊の座布団は、どんどん熱をあげていきます。(59)
魔物どもには、登らんとする朝日の動きを止めることができないのと同じくらい、
この座布団をどうすることもできない有様でした。(60,61)
この座布団は、鉄でできた山が燃えているかのように見えました。(62)
このため島の温度はグングンあがり、堪えられないほどになってきました。
そのため魔物どもは逃げ場所をさがして右往左往しています。(63)

「こりゃたまらん。どっかに逃げたいんだが、
どこに行けばこの危機を抜けられるんだか皆目見当がつかん。 (64)
このうえさらに、あいつ(世尊)自身まで熱くなりだしたら、
俺らは焼け死んでしまうぞ。全滅してしまうぞ」(65)

世尊は、ヤクシャどもが苦しみ途方にくれているのを確認なさってから、
魔物どもが安心して暮らすにはどうしたらよいかについて、
思いをめぐらされました。(66)
そこでランカー島とよく似た「ギリ」という島に思いを向けられました。(67,68)
そこは気候もよく、美しい島でしたが、文字どおりの無人島であり、
さらに絶海の孤島で、島への出入りは困難をきわめるような場所でした。(69,70)

「魔物どもよ、いいことを教えてやろう。
この島から遠くないところにギリという島がある。
その島をおまえらにプレゼントしてやるから、そこに移住したらどうだ。 (72)
このランカー島はな、昔から人間たちが住むべき島なのだ。(73)
後世に、仏教がこの島に伝われば、この島はすばらしい島になる」 (74)

世尊は、人間たち、魔物ども、そして、島のために
このような行動をおとりになられたのです。(75)
世尊は、超自然的な力を発揮なさり、固いナワをつかって
牛を引き寄せるかのように、ギリ島をお引き寄せになられました。
世尊によって、ふたつの島は、固いナワでつながれた一対の舟のように、
海のうえに並んだような状態になりました。(76)

「おい、魔物ども。おまえたちが行きたがっているギリ島はあそこだ。
はやくあそこに行け。さあ」(77)

ヤクシャなどの魔物どもは、喉がかわいた人が川に殺到するような感じで、
皆ギリ島に殺到していきました。
こうして魔物どもが皆ギリ島に行ってしまったのを確認した世尊は、
魔物どもがランカー島にもどってこないうちに、ギリ島をもとの位置に
もどしてしまわれました。(78)
世尊は魔物どもがギリ島に満足しているのを確認なさいました。
そして世尊は、島に対して守護の呪文をおかけになられました。(79,80)

こうして世尊は、ランカー島の平安と魔物どもの満足をともに達成なされ、
ふたたびインドのウルヴェーラーにお帰りになられたそうです。 (81)

おわり