伝 日蓮上人 撰(伝 1254(建長6)年)『十王讃歎鈔』の大雑把訳です。
[前] 9:都弔王/大勢至菩薩 |
第三年の王は五道輪轉王、本地は釋迦如來である。
[Table of Contents]罪人が「できれば大王のご慈悲により、召人にしていただけませぬか。 ここまでの王たちの御前には召人が大勢いましたが、彼らがうらやましいです。 道中の苦しみが重すぎで、またどんな道に行かされることか」と申しあげる。
大王は「不便とは思うが、無理に断罪している訳ではないし、 召人たちは皆それぞれに王と縁があってそこにいるのだ。 [p.1990] 汝にはそんな縁がないので、召人にはできない。だから娑婆の追善があれば、 善処に送ってやろう。 だが弔いがなければ、これから行かす場所もないので地獄行きだ。 不便だが、自業自得の結果なのでどうにもならぬ。 ここまでの苦しみは、地獄苦と較べれば大海の一滴のようなものだ。 汝、その地獄苦を受けるときはどうするか。地獄の有様を語ってやろう。---
[Table of Contents]まず八大地獄といって8つの地獄がある。 (1)等活、(2)黒繩、(3)衆合、(4)叫喚、(5)大叫喚、(6)焦熱、(7)大焦熱、(8)無間地獄である。 このそれぞれに16の別所があり、合わせて136個の地獄がある。 この八大地獄は(1)等活地獄から下に重なっていて、(8)無間地獄がいちばん下である。
[Table of Contents](1)等活地獄は地下1000由旬、縦横10000由旬。 そこにいる罪人は互いに害心を抱き、たまたま遭遇するときは狩人が鹿に会ったようなもの。 それぞれ鉄爪でつかみ裂き、血肉がなくなり骨だけが残る。 もしくは、鉄の臼に相手を入れて、鉄の杵でこれを擣く。 もしくは、煮立った銅の湯の中に入れて、豆のように煮る。 そこに身が沈むのは、重い石のよう。浮かび上がると手をのばし、天に向かって号泣す。 もしくは、大きな鉄串を下から刺して頭に通し、何度もひっくり返してこれを炙る。 もしくは、つねに猛火の中で焦がされる。 これ以外の苦について言い切れない。 この地獄の火を人間界の火と比べると、人間界の [p.1991] 火は雪のようなもの。 だがこの地獄の火を他の地獄と比べると、雪のように見える。 この地獄での寿命は500年である。ただこの地獄の一昼夜は人間の900万年に相当するから、 ここでの500年は、人間界では無量の年月となろう。 地獄苦は後ろの地獄ほど増し、それぞれ10倍は重くなる。 寿命も同様。苦の様子はいちいち語らないが、想像すべし。
[Table of Contents]次に(8)無間地獄(阿鼻地獄)の様子である。 (8)無間地獄は(7)大焦熱地獄の下、ここから25000由旬の先にある。 中有のときにその地獄の罪人どもの叫びを聞いて、すぐ悶絶して 頭を下、足を上にして矢のようにして2000年かけて落下していく。 阿鼻城は正方形で一辺80000由旬。 七重の鉄城、七重の鉄網、下には18の隔。 四隅には銅の狗が4匹いて、身長40由旬、眼は電のよう、牙は剣のよう、 歯は刀山のよう、舌は鉄の荊のよう。毛穴すべてから猛火を出し、 その煙は喩えようのないほど臭い。 また獄卒が18人いて、頭は羅刹のよう、口は夜叉のようで、 眼が64個ある。上につき出た牙の高さ4由旬で、 牙の先から火が出ていて阿鼻城を満たす。 頭上に牛頭が18あり、それぞれの角の先から猛火を出している。
また四門の戸閾の上には釜が18個あり、銅の湯が沸騰していて城中を満たす。 それぞれの隔の間に鉄の蠎の大蛇が84000匹いて、毒と火を吐いて城中を満たす。 その蛇の吠える声は百千の雷の [p.1992] よう。
また黒くて肥えたる蛇がいる。 罪人をトグロ巻きにして、足の甲から徐々に食いちぎる。
あるいは熱鉄の銛で口を切り、開いて煮える銅の湯を口に注ぐと、 喉も口も焼けて臓腑を通って下から出る。 燃える刀で全身の皮をすべて剥ぎ、涌いてる鉄の湯を濯ぐ。
あるいは熾烈なる火が炎をあげて迫り、皮を穿ち、肉に入り、骨を焦がし、 身体から頭に燃え出る様子は、まるで脂燭のよう。 罪人の身体で、火が燃えてない箇所は針穴ほどもない。 これゆえ(8)無間地獄というのだ。 この苦の様子をいちいち言うことは難しい。
他の七大地獄と別所を全部合わせた苦しみを一分とすると、 (8)阿鼻地獄はその1000倍すごい。こんな無間の苦を受けるのは1大劫の間である。 (8)無間地獄の一昼夜は人間の60小劫に当たる。 また罪人どもは皆、自分の身体がすべて阿鼻城を満たして隙間なしと思う。 それゆえ(8)無間地獄と言う、との説もある。 この地獄の人が(7)大焦熱地獄の罪人を見ると、まるで他化自在天を見ているよう。
(8)阿鼻地獄の苦は、その1/1000も説けない。 譬えるにも譬えきれず、説くにも説ききれないからである。 これを説くのを聞いた者は、血を吐いてすぐ死ぬとも言われる。 この地獄一つに堕ちれば、136個すべての地獄を経歴する。
汝、そのときの苦患をどうするのか」と語られると、 罪人はこれを聞いて怖気づくのみ。 大王は「汝は、いま地獄の様子を聞くだけで、そこまで怖気づくのだ。 [p.1993] 地獄の火に燃えるのは、乾いた薪に火をつけるようなもの。 これは火で焼かれるのではない。悪業で焼かれるのだ。 火で焼かれるのは消火できるが、悪業で焼かれるのは消すことはできない。 かような重苦を受けるのは、汝の心がけのみから起こったことである。 頼みにしても、頼みにならぬのが妻子の善根なり。 しかも没後の追善は1/7しか受けられない。 追善を受けられたとしても、浮かぶほどは弔ってくれない。 存命のうちに反省せず、今さらながら後悔しても、何の意味もないぞ」と宣い、 地獄へと送られる。
もしまた追善をなし、菩提を祈れば成仏させることができ、あるいは 人界・天界に送られる。 [終]
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