[仏説地蔵菩薩発心因縁十王経 (発心因縁十王経、地蔵十王経)]

地蔵十王経について

成都府大聖慈恩寺沙門蔵川述
『仏説地蔵菩薩発心因縁十王経』(12世紀?)
(発心因縁十王経、地蔵十王経)

に関する「めも」です。


[前] 冥途って、どこ?

閻魔王はどこに?

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閻魔王が手がかり

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冥途はどこにあるのか? ‥これを考えるためのヒントは、実は『地蔵十王経』の中にも、あります。 それは「閻魔王」の存在です。

 閻魔王以外の王たちについては正直「この王って、いったい誰なの?」的な感じの方々 ばかりな訳ですけど。そんな中、5:閻魔王だけは仏教でもチョー有名な御存在である訳でして。 つまり。仏典において、閻魔王がどこにいることになってるか。これがわかれば、 その閻魔王宮が出てくる 『地蔵十王経』の舞台がどこか、何となくわかってくるのでは? ということです。

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望月仏教大辞典の情報

しかし。どこをどう調べ始めたらよいか、よくわかりません。そこで。困ったときはこれ、という 感じで望月仏教大辞典から紹介してみたいと思います。「閻魔王」の項、かなり長いんですけど。 この中から、閻魔王の住処に関する記述をここで紹介させてください。これもかなり長いです:

又閻魔王の住処に関しては、長阿含経第十九地 獄品に「閻浮提の南、大金剛山内に閻羅王宮あり、王所 治の所にして縦広六千由旬あり。其の城七重にして、七 重の欄楯、七重の羅網、七重の行樹あり。乃至、無数の衆 鳥相和し、悲鳴すること亦復た是の如し」と云ひ、大毘 婆沙論第百七十二に「贍部洲の下五百踰繕那にして琰 魔王界あり、是れ一切の鬼の本所住処なり」と云ひ、正 法念処経第十六、倶舎論第十一、阿毘達磨順正理論第三 十一、彰所知論巻上等にも亦同説を出せり。是れ閻浮提 の南方地下に閻魔王の世界ありとなすの説にしてマハ ーブハーラタ等の所伝と相同じ。旧華厳経第十一、金光 明最勝王経第六等に、地獄餓鬼畜生に並べて琰魔王界 を挙げたるは、亦三悪道の外に別に閻魔の住処を認め たるものといふべし。然るに大般若波羅蜜多経第五百 二十には「若し菩薩摩訶薩是れの如く学する時、地獄、傍 生、剡王魔界に堕せず」と云ひ、大宝積経第七十五六界 差別品に「或は地獄に生じ、或は畜生に生じ、或は閻魔 界に生じ、或は阿修羅に生じ、或は天中に生じ、或は 人中に生ず」と云ひ、新華厳経第十華蔵世界品に、「地 獄、畜生道、及び閻羅処、是の濁悪の世界は恒に憂苦 の声を出す」と云ひ、又瑜伽師地論第三十七に「那落 迦世界、傍生世界、祖父世界(即ち琰魔世界)、人世界、 天世界等を振動す」と云ひ、同第四十六に「或は十種 の所調伏の界あり、一に那落迦、二に傍生、三に琰摩 世界、四に欲界天人、五に中有、六に有色、七に無色、 八に有想、九に無想、十に非想非非想処なり」と云へ るは、共に皆餓鬼界の代りに閻魔王界を挙げたるもの にして、即ち三悪道中の餓鬼界を以て彼の王の住処と なせるものと謂ふべく、又立世阿毘曇論第八閻羅地獄 品に「邪悪の心を起造し、及び邪曲の語を説き、或は 邪の身業を作り、昔の放逸に由るが故に、少聞にして 福徳なく、促命の中に悪をなす、是の人身命を捨てば、 即ち閻羅獄に堕す」と云ひ、瑜伽師地論第二に「那洛 迦の中に生じて静息王となる」と云ふが如きは、即ち 閻羅の住処を地獄界に在りとなせるものと謂ふべし。 此の如く其の住処に関し諸説あるも、就中、南方地下 に別世界ありとするは、恐らく早き時代の思想なるべ く、尋いで閻羅は鬼界の王なるを以て之を餓鬼界に摂 すべしとし、後又罪人を考治するの説より転じて、遂 に之を地獄界に置くに至りしものなるべし。 (望月仏教大辞典(1932), pp.319c--320b.)
単なる書き写しではアレですので、引用文中にある文献の引用箇所について、 その所在がわかる箇所については SAT へのリンクを貼ってみました。

 ‥んー。思ったほど簡単ではないですね。地獄変相などでは 閻魔王は地獄世界におられるように描かれてるのが一般的なので、 地獄におられる感じの設定になってるんだろうと勝手に思ってましたけど。 案外そうでもないみたいですね。

 「長阿含経」などによれば、 最初は南方にある山の中(の地下?)におられるという感じであった、と。 それが死者(鬼)たちの王、という理解が主流になってきたからか 「大毘婆沙論」「正法念処経」「倶舎論」などではかなり深い地下空間に移動していき、 「旧華厳経」「金光明最勝王経」「大般若波羅蜜多経」などでは地獄餓鬼畜生界などと 列挙されるどこかの場所‥つまり地獄とも餓鬼界とも「この世界」とも違うどこかになり、 「瑜伽師地論(第三十七)」では祖父世界(=餓鬼界)=琰魔世界となり、 「立世阿毘曇論」「瑜伽師地論(第二)」でようやく「地獄界」なるものに定住したらしい、と (異世界なのか、超大深度地下空間なのか、どっちなのかは不明)。 そんな感じでしょうか。転勤の多いサラリーマンみたいです(^_^;

祖父世界(=餓鬼界) と閻魔王については [ インド仏典にみる餓鬼 ] もどうぞ

 ただし餓鬼界と地獄界の関係は一般的には微妙 [詳細はこちら :: 餓鬼と地獄の混同] で、 両者を同じと考えることも別物とすることもありますので、 調べれば調べるほど訳わからなくなるような気がしないこともありません。

 仏教以外の展開を見てみても、 もとはインドのヴェーダ時代のヤマ神がスタートで、その頃は天上界に住んでいたものが、 マハーバーラタの頃は南方地下世界(これは「長阿含経」と同じ)に住処を替えていた‥などの ことが書かれています。 (そしてその観念は、現代ヒンドゥー教と同じなんですね‥) ‥んー。実にバラバラだ‥。

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往生要集(10c末)の閻魔王

日本における「地獄」のネタ元として有名な「往生要集」(10c末)(大正2682)。ここでの閻魔王に関する記述を見てみます。

此惡業人。先於中有見大地獄相。有閻 羅人。面有惡状。手足極熱。捩身恕肱。罪 人見之極大忙怖。 ‥(略)‥ 漸漸向下十億由旬。一切風中。業風第 一。如是業風將惡業人去到彼處。既到彼 已。閻魔王種種呵嘖。呵嘖既已。惡業羂縛 出向地獄。遠見大焦熱地獄普大炎然。又 聞地獄罪人啼哭之聲悲愁恐魄受無量 苦。 ( 往生要集; 1-1-7:大焦熱地獄; 大正蔵pp.84:35b5--35b18. )
[大雑把訳] この悪業人はまず中有において大地獄の様子を見ます。閻魔配下の獄卒たちは凶々しい顔をして、 手足が極熱で、身を捩り肱を張ってます。それを見た罪人は震えあがるのです。‥(略)‥ 徐々に十億由旬も降りていきます。(地獄の)業風が吹く中、あの場所に到着します。 そこで閻魔王の種々呵責を受けます。呵責ののち悪業の縄に縛られて、地獄へと出向くのです。 はるかに大焦熱地獄の大炎が燃え上がるのが見えます。また地獄にいる罪人どもが泣き叫ぶ声を聞き、 魄から悲愁し恐怖します。ここで受ける苦しみは、はかり知れないほどです。

 これは『正法念処経』から持ってきた部分みたいです。 大焦熱地獄の記述で閻魔王がいきなり出てきて「はあ?」という感じですけど、 さらに不思議なのは、閻魔王は大焦熱地獄に赴く途中の「彼處」にて罪人を呵責し、 その後さらに地獄へと堕ちていくとなってます。「彼處」って一体どこ? 大焦熱地獄に行く人しか閻魔王とは会えないの?? 閻魔王は判決するんじゃなくて呵責するだけ??? ‥んー。 よくわかりません (^_^;

 他の場所を見てみると、こんな記述が:

第二明餓鬼道者。住處有二。一者在地下 五百由旬。閻魔王界。二者在人天之間。其 相甚多。今明少分。 ( 往生要集; 1-2:明餓鬼道; 大正蔵 pp.84:37a13--37a15. )
[大雑把訳] 2番目に、餓鬼道について。その住処は二つ。まずは地下500由旬の閻魔王界。 そして人・天の間である。その相貌は多様であるが、ここで一部を紹介する。

 なるほど。「地下500由旬にある閻魔王世界」と書いてありますね。 いろいろある地獄のうち、いちばん浅い場所にあるはずの「等活地獄」が地下1000由旬と書いてありますから、 地獄よりも浅い場所(ちなみに上で紹介した大焦熱地獄は地下「十億由旬」。どんだけー!) に、 地獄とは別の「閻魔王世界」があるということになるのかな??

たしかに別の箇所を見ると

若諸衆生縁於如來生諸行者。斷無數 劫地獄畜生餓鬼閻魔王生。若有衆生一念 作意縁如來者。所得功徳無有限極。 ( 往生要集; 7-1:滅罪生善; 大正蔵 pp.84:72a15--72a17. )
[大雑把訳] 如来生と結びついた行いをすれば、永遠につづく地獄畜生餓鬼閻魔王への誕生を終わらすことができる。 如来を念じ思えば、それで獲得する功徳は限りがない。

 このようにも書いてあって、つまり閻魔王界は地獄・餓鬼・畜生世界(=三悪趣)と列挙される、 つまりその3つとは別物、とされてますね。 これは [ 上で紹介した、いろんな仏典における記述 ] のうち 「大宝積経第七十五六界差別品」 「新華厳経第十華蔵世界品」 「瑜伽師地論第三十七」などの記述と同じ感じの理解になりそうです。

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