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盂蘭盆経について

佛説盂蘭盆經 (大正0685) に関する「めも」です。


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盆と正月

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盆と正月

ついでに盆と正月の関係について、柳田説をちょっと紹介しておきます。

結論から言ってしまうと、もと「盆」と「正月」はともに先祖祭の儀式をおこなう、 同じような日であったのでは? といった感じのようです。曰:

もとは正月 も盆と同じように、家へ先祖の霊の戻って来る嬉しい再会の日であった。(柳田1946;p.43)
正月と盆とは春秋の彼岸と同様に、古くは一年に二度の時祭で、儀式もその趣旨も、双方 異なるところがなかったろうと私は思っているのだが、(柳田1946;p.74)
「双方異なるところがなかったろう」とありますから、 「同じような日」じゃないですね。「同じ日」ですね。

 それがやがて「どこが違うのか」「どう区別するか」を気にする人たちによって、 正月は「めでたい」、盆は「まだ『ご先祖』になりきってない、割と最近亡くなった身内への 追慕、という側面が強調された結果、今のように全然違うもののようになってしまったのでは?‥と いった感じのようですね。

 このように推測できる理由として、柳田1946 は以下のように言ってます:

荒盆、新精霊などという悲しみを分つ礼儀が、近代はこと に濃厚になっているゆえに、そういう方面のみが注意せられやすいが、十年二十年と何の不 幸もなく、安らかに暮している家々はずっと多い。そういう家どうしの往来を見ていると、 この正月と盆との類似はことによく判るのである。(柳田1946;pp.55-56)
「まだ『ご先祖』になりきってない、割と最近亡くなった身内がいない家」における盆の様子は、 なんか正月にやることと すげー似てるじゃん、ということみたいです。

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折口説でも‥

正月と盆の類似性については、折口説でも同様のことが指摘されています。

盂蘭盆会も、仏法種よりも、寧、古代信仰が多く残つてゐる様だ。飛鳥朝の末などの盂蘭盆の記録などの、異国臭いのと比べると、後代のは、よつぽど和臭を露 骨にしてゐる。盆棚なども、仏家の式と言ふより、陰陽道を経て移つて行つた形なる事を見せてゐる。還つて来る精霊にも、尊者と従者或は無縁の霊などを分け てゐる。地方によつては、歳の夜から正月へかけて、戻つて来る聖霊の一群のあることを信じてゐて、其と歳棚へ来る歳徳神との間に区別を立てゝも居ない。 「つれ/″\草」には、東国の魂祭りの、大晦日の夜に行はれた印象を書いてゐる。だから、盆に戻る聖霊は、水神祭りの対象でもあり、夏祓へに臨むまれびとの一群でゞもあつたのだ。 ‥(略)‥  縁女・奉公人の藪入りも、上元・中元をめどとした親拝みの古風である。即、鎮魂の一様式でもあつた。
かうして見ると、秋祭りには、穂祭り・神嘗祭りの意義のものが多く、真の秋祭りとも言ふべき新嘗祭りは、段々、消えて行つた。さうして其上に、夏祭りと同根の、夏祓への分化した様式が、七夕節供や水神供となり、又祭りの余興としか考へられなくなつた相撲があり、すつかり見えの変つて了うたのが、盂蘭盆であり、何ともつかぬ年中行事となつたのが、盆礼の「おめでたごと」であつた。 (折口信夫(1929)「ほうとする話 祭りの発生 その一」の3. (青空文庫))
盂蘭盆会も、盆棚も、仏教と呼ぶにはかなり和風くさい。盆のときにやってくる精霊たちは、古来よりの魂祭りでやってくる精霊たち、大晦日にやってくる精霊たちと違いがない。‥と、そんな感じでしょうか。

 でも昔の「お盆は和風くさい」と言われても いまいちピンと来ないですよね。ということで 過去の「お盆」はどんな感じか。次のページでそのへん、ちょっと見つけたやつを紹介しておきます。

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[おまけ] 19世紀末朝鮮の小正月

‥と、 その前に。たまたま見つけた中国・朝鮮での「盆と正月」について、とりあえずここにメモっておきます。

19世紀末の朝鮮では小正月、つまり正月15日に「フォーマルな墓参り」をする伝統が あったみたいです。

This day, the "Great Fifteenth Day," concludes the kiteflying and stone fights which enliven Seoul for the previous fortnight, and every Korean insists on keeping it as a holiday. Graves are formally visited, and gathered families spread food before the ancestral tablets. (Isabella Bird Bishop(1898),"KOREA And Her Neighbors",F.H. Revell Co.; p.266. [Web Archive]) // この日、「小正月」にこの二週間ソウルに活気を添えてきた凧揚げと石合戦に決着を付け る。全ての朝鮮人が、その日は祝日にしておくよう、主張している。正式に墓参りする。集 まって来た家族たちは祖先の銘板[位牌]の前に食べ物を広げて並べる。 (朴尚得訳(1994)「朝鮮奥地紀行2」東洋文庫573, p.90)
小正月に先祖祭というか先祖供養というか、そういう行事を行ってますね。 小正月ということは、たぶん夜が先祖祭の本番じゃないかと思うんですけど(思うだけ)。 これって上で紹介してきた「もとは正月は先祖祭」説と同根だったりするんでしょうか。 よくわからないんですけど、とりあえずメモっておきます。

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