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インド系古典にみる外道ども

インド系古典仏教文献における「外道(tīrthika)」で、目についたものを集めてみました。

[前] はじめに

「インド系古典仏教文献の外道ども」の基礎知識

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はじめに

 仏教の開祖であるゴータマ・ブッダが登場した舞台は、 貨幣経済が発達し、それまで低い社会的地位しか与えられていなかった 商工業者・庶民階級が力を持つようになっていた時代でした。 そのような状況においては、当然のことながら、それまでの古い価値観に 縛られない新たな思想・新たな価値観が求められます。 それゆえ多くの新しい思想家・宗教家たちが次々と登場し、 活躍することとなりました。のちに仏教の開祖となったゴータマ・ブッダも、 それら多くの思想家の一人であったようです。

この時代に活躍した思想家たちが仏教系テキストにおいて紹介されるとき、 彼らは「仏教以外の思想家」 -- 「異なる道を進む人たち」 -- 「外道」と いう呼称で呼ばれることとなったのです。これら「外道」と呼ばれた 思想家たちの中で、最も有力であった思想および思想家をまとめて「六師外道」と 呼んでいます。

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六師外道

ここで「六師外道」のそれぞれについて、ごく簡単に紹介しておきましょう。

  • アジタ・ケーサカンバリン (ローカーヤタ派、順生派(唯物論)) // 人間は地水火風という独立した4元素から成り、人間は死ぬと それぞれの元素が元に戻るだけであり、善も悪も、その報いもない。
  • パクタ・カッチャーヤナ (唯物論) // 人間は単なる地水火風および苦楽命の7要素の集合体であり、 剣で頭を切断しても、それは各要素の間を剣が通過したにすぎない。
  • プーラナ・カッサパ (道徳否定論) // 行為には善悪は存在せず、よってその果報も存在しない。
  • マッカリ・ゴーサーラ (アージーヴィカ派、邪命外道(宿命論・決定論)) // 人は輪廻するが、あらかじめ決まった時期が来るまでは輪廻を 脱することはできないし、また時期が来れば苦は滅する。
  • サンジャヤ・ベーラッティプッタ (不可知論) // 形而上学的な問題については判断停止。
  • ニガンタ・ナータプッタ (ジャイナ) // 相対主義・苦行主義・要素実在説。戒律のなかでも 不殺生・非所有が重視される。断食苦行の強調。
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仏教との関係

(以下、他のページへの移動の可能性が高いですけど。とりあえずここに‥)

ところで。これら「六師外道」たちと仏教の関係はどんな感じだったか? ということについてですけど。

 たとえば4番目の 「マッカリ・ゴーサーラ (アージーヴィカ派、邪命外道)」について。

 アージーヴィカ教徒は、最初期の仏教徒たちと実践を異にしていたが、かならずしも対立はしてい なかったらしい。その証拠を、次の挿話が示している。
 ゴータマ・ブッダが亡くなったときに、  ‥(略)‥
 アージーヴィカの修行者が、異教徒であるはずの仏教の開祖の死に弔意を示し、花をささげている のである。そこには敵対意識がない。 (中村元(1991)『中村元選集決定版10思想の自由とジャイナ教』春秋社, pp.107--108)
ここで紹介されている「挿話」について、バッサリと省略してしまいましたけど。 これはパーリの涅槃経(など)ですね。ちなみにそのアージーヴァカ行者はこう言ってます:
今日から七日前に修行者ゴータマは亡くなりました。で すから、わたしはこのマンダーラ華を手にもっているのです」 (中村元(1991)『中村元選集決定版10思想の自由とジャイナ教』春秋社, p.108)

ちなみに、このパーリ涅槃経と深い関係にあるとされる漢訳『長阿含経』(大正1)の涅槃経の 当該部分にはこうあります:

時大迦葉遙 見尼乾子。就往問言。汝從何來。報言。吾從 拘尸城來。迦葉又言。汝知我師問乎。答 曰知。又問我師存耶。答曰。滅度已來已經七 日。吾從彼來得此天華。 (長阿含経(大正1), p.1:28c, [SAT])
[大雑把訳] そのとき大迦葉はニガンタの弟子を見つけ、話しかけます。 「どこから来ました?」「クシナガラから」「わが師について何か知ってますか」 「ええ」「我が師は‥」「亡くなってから七日経ちます。この天華はそこから 持ってきたものです」

 パーリでは「4:アージーヴィカ」だったのが、こちらは「6:ニガンタ」になってます。 どちらもゴータマブッダの死に対する弔意の気持ちを示しています。 このことはつまり「六師外道」という感じで「外道」呼ばわりしているわけですが、 別にそれほど際立った対立関係にある感じではなかった、と。 そんな感じに言えそうですよね。

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参考文献

早島鏡正(1979)『ゴータマ・ブッダ』 (人類の知的遺産 3) 講談社.
[次] 根本有部律『出家事』に見る「外道」 (1)