黎明期コンピュータ技術者の「ぐる」(Jargon File)
[Table of Contents]Hackers Jargon File
黎明期コンピュータ技術者(ハッカー)たちの文化を理解するうえで役立つのが
"Hackers Jargon File" [Wikipedia]というやつです。
この文書には、ハッカーたちが日常使っていた俗語がどんなものだったかという
情報がちりばめられているからです。
ということで早速 Jargon File を見てみましょう。当然のように
[ 「東北大の山根」のミラー ] を使ってみます . . . あったあった。
http://www.vacia.is.tohoku.ac.jp/mirror/jargon/jargon_22.html#TAG819 によりますと、
こんな風に出ています。
[Table of Contents]単語guru
guru /n./
[Unix] An expert. Implies not only wizard skill but also a history of
being a knowledge resource for others.
Less often, used (with a qualifier) for other experts on other systems,
as in `VMS guru'. See source of all good bits.
guru meditation /n./
Amiga equivalent of `panic' in Unix (sometimes just called a `guru' or `guru event').
When the system crashes, a cryptic message of the form
"GURU MEDITATION #XXXXXXXX.YYYYYYYY" may appear, indicating
what the problem was. An Amiga guru can figure things
out from the numbers. Sometimes a guru event must be followed by
a Vulcan nerve pinch.
This term is (no surprise) an in-joke from the earliest days of the Amiga.
There used to be a device called a `Joyboard' which was basically
a plastic board built onto a joystick-like device;
it was sold with a skiing game cartridge for the Atari
game machine. It is said that whenever the prototype OS crashed,
the system programmer responsible would
calm down by concentrating on a solution while sitting
cross-legged on a Joyboard trying to keep the board in balance.
This position resembled that of a meditating guru. Sadly,
the joke was removed in AmigaOS 2.04
(actually in 2.00, a buggy post-2.0 release on the A3000 only).
[Table of Contents]「グル」の日本語概要
guru (名詞)
[Unix] 熟練(エキスパート)。単なる名人(wizard skill)というだけじゃなく、
みんなに教えてくれる人。Unix以外のシステムでもたとえば `VMS guru' みたいに
使われることも。
guru meditation (名詞)
Unix の「パニック」みたいなのを Amiga でこう言う。Amiga のシステムが暴走すると
"GURU MEDITATION #XXXX.YYYY" みたいな感じの謎めいたエラーメッセージが出るんだ。
Amiga guru は、この XXXX.YYYY の数字を見ただけで何が起こったのか わかる。
このguruイベントが起こると、その次に Vulcan nerve pinch (三本指攻撃。要するに Control+Alt+Delete の同時押しのこと; 解説, ネタ元は右動画)が執り行われることもある。
この単語は、Amiga最初期の内輪話に由来する。
「ジョイボード」 [Wikipedia]という装置があったんだけど、
開発中のシステムがバグるたび、開発者たちはジョイボード上に足を組んで座って
バランスを取ることで 落ち着きを取り戻していたらしい。
これがグルの瞑想の姿勢と似てたんだね。ただこれは Amiga 2 になると消滅した。
[Table of Contents]つぶやき
[Table of Contents]guru について
ポイントは「単なる名人(wizard skill)というだけじゃなく、
みんなに教えてくれる人」という点ですよね。英語でいうと
being a knowledge resource for others
この点。単に「すげえ人」というだけならグルとは言わない、
皆を教え導いてくれる人じゃないと。‥と。
[Table of Contents]guru meditation について
こちらは、上記「グル」とは着眼点がちょっと違うところがあります。
上記「グル」の場合は、なによりもまず「教え導く」点、それこそが
グルの特質だと語っている訳ですけど、こちらはそうではありません。
「教える」という点とは何も共通点がありません。そうではなく‥
開発中のシステムがバグるたび、開発者たちはジョイボード上に足を組んで座って
バランスを取ることで 落ち着きを取り戻していたらしい。
これがグルの瞑想の姿勢と似てたんだね。
グルの瞑想の姿勢と似ていた
(This position resembled that of a meditating guru)‥。
つまり「グル」とは「教え導く人一般」を意味する言葉では やっぱりなくて、
瞑想型の修行をする人たち、つまり、インド系の宗教者たちという縛りが
(当然ながら)ガッチリ残っているということですよね。
たぶん日本の「禅」とかもこのカテゴリに入るんだろうとは思いますけど、
でもやっぱり
アニメの「ミクロ決死隊」の
Guru 隊員のようなイメージが、やっぱり、強いんだろうと思います。
[Table of Contents]世間に馴染まないイメージ?
私のイメージでは、インド系の宗教というのは、仏教も基本的にはそうなんですけど、
出世間型の宗教のように思えるんですよ。つまり世俗を離れて、
自分は高みを目指すし、おまえらもそういう方向(出世間)を目指せよ、と。
そういう点で「グル」はどうしても世の中に背を向けてるというか、
一般社会に馴染まないとか、そういう感じになると思うんですけど。
コンピュータ開発者のグルはそのへん、どうかと考えてみたんですけど。
‥‥‥まあ、社交的であるべき職種ではなさそうですよね。実際、古文書(?)を見ても
ここでの「本物の男たち」というのは「本物のプログラマ」のことです。
彼らは大衆どもに迎合する真似はしなかったし、
女子供の食うようなキッシュ(Quiche)なんかも食わなかった‥。
安易に世間に迎合せず、自分が「正しい」と信じる方向に突き進む、そんな
「本物のプログラマ」たちの職人気質な態度は、
意外と「グル」とイメージは合いそうですね。そのへんのイメージの合致も
「グル」という単語が使われる理由にあったりするんでしょうか。