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[チラシの裏]

ジョン・ロンソン(夏目大 訳)(2017)『ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』

著 ジョン・ロンソン
訳 夏目大
年 2017 (original 2015)
表題 ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち
発行 光文社新書869




自分用のメモということで、本書のどのへんに、だいたいどんなことが 書かれてたかという切抜・覚書です (概要をまとめて よく見えるところに出しておかないと、読んだ内容も、これを読んだことさえ 肝心なときに(あるのか? そんな時‥)思い出さないことがありますので‥)。 ついでに簡単なコメントをつけてることも ありますが、メモなのでコメントは非常に簡単なものに留めてます。


[Table of Contents]

1.ツイッターのなりすまし

2012年。 自分の名前のアカウントで情報を発信し続けるインフォモーフ(infomorth)。やめてくれ、との話し合いも

「妙ですねえ」ダンは言う。「実に不思議です。あなたのとらえ方はおかしい。あなたは実 名でツイッターを使用している数少ない一人です。本当になかなかそういう人はいない。だ から、私はあなたがどんな動機でそうしているのか疑問に思っている。あなたは自分のブラ ンドを高めるのにツイッターを利用しようとしているのではないですか」(pp.15--16)
こんな感じで決裂。話し合いの様子をネットに投稿したら賛同者がつき、 賛同者たちのコミュニティの圧力によって偽アカウントは凍結に。 ソーシャルメディア、みんなのチカラを武器にして戦って勝利した、といえば聞こえは良いが、
ある意味で、大昔には存在した刑罰が今、復活しつ つあるということかもしれない。公衆の面前で晒し者にするという刑罰は、昔は普通に行な われていたからだ。約一八〇年の眠り(イギリスでは一八三七年、アメリカでは一八三九年 に、その種の刑罰は廃止されている)から覚めた、ということなのだろうか。(p.22)

 ‥ニュースを見てると、たまに、 時代劇などでよく耳にする「市中引き回しの刑」、なんで今やらないのか。 凶悪犯罪した人には「市中引き回しの刑」やればかなり効果ありそうなのに‥ なんて思うこともあったりするんですけど。 それがソーシャルメディアの「晒しあげ」「炎上」と同じ種類のものというのは、 ここで指摘されるまでは気づきませんでした。

 それと個人的に「おお!」と思ったのが最初の引用。「実名でTwitterをやる」のは ずいぶん風変わりだとの指摘は、んー。日本だと本名を隠したがる傾向があって、それは パソコン通信からの流れがどうこう‥的な話は昔よく耳にした気がする(うろおぼえ)んですけど、 今は世界中どこでも「匿名が基本」なんでしょうか。どうなのかな。あんまりそういう 印象もないですけどね。んー。

[Table of Contents]

2.誰も気づかなかった捏造

世界的に有名だったジャーナリスト、ジョナ・レーラーのベストセラー本にあった捏造事件。 引用されたボブ・ディランの発言の中に典拠不明のものがある→適当にごまかす→ ごまかした内容が虚偽と発覚

「悪質な嘘つきというのは、だいたい自分の嘘をつく能力に自信を持っています。自分なら いつでも相手を言い負かせると思っているのです」 (p.39)
→捏造を公表しないでと懇願→公表を躊躇してるうちに同業者に情報が漏れる→公表。

 ‥ネットリンチとは関係なさそうなトピックですけど、ポイントは「秘密の暴露」。 レーラーの場合、ディランの発言内容の捏造、というよりも 引用する言葉を自分に都合よくちょっと改変、というか私には「うろおぼえベースの引用」にも 見えましたし、だから内輪の話だったら「おまえ、もっとキチンとやれ!」と怒られる(怒る)程度で 済むレベルの話じゃね?? と思ったりもしますけど。でもそれが公共の場で 暴かれてしまうと、これほどの「身の破滅」的案件にまでなってしまうのは、 やっぱり怖い話ですね‥。

「なぜ怖いんでしょうね」私は尋ねた。
「誰しも人に知られたくないことがあるからじゃないでしょうか」彼はそう言った。 (p.55)
[Table of Contents]

3.ネットリンチ---公開羞恥刑

レーラーの(些細な)捏造の発覚を契機に レーラーの他の著作での不具合も続々発見され、 レーラーは破滅。L.ライト財団のカンファレンスでの講演は公開謝罪を含む講演となった (講演内容への反応Tweetを会場にリアルタイム表示! p.81)。人々は謝罪の言葉だけを聞き、 他の話(講演の内容)には誰も興味を持たない‥

はじめは良いかと思われた状況は、あっという間に悪化してしまった。ツイッター上でジ ョナ・レーラーは厳しい罰を受けていた。それは、彼が自ら得た特権の使い方を誤ってしま ったからかもしれない。皆の攻撃を受けて、彼はすでに床に倒れているのに、まだ殴る蹴る の暴行が続けられている。しかも、攻撃する側はその暴行を楽しんでいるようにも見える。
 やがて講演は終了した。レーラーと同じ場にいる人たちからの反応は温かく、拍手喝采が 起きていた。 (p.87)
 ツイッターに書き込む時、人は法廷ドラマの登場人物のようになってしまうのか。そして、 どの役を選んでもいいのに、なぜほぼ全員が裁判官役になって厳しい判決を下すのか。
 あるいは、事態はそれよりもっと悪いのかもしれない。他人がむちで打たれているのを眺 めながら、面白がって無責任に野次を飛ばしている連中と変わらないということか。 (p.93)

 1787年アメリカで、建国の父の一人とされるベンジャミン・ラッシュの主張:

公衆の面前で屈辱を与える刑罰は、実は死刑よりも残酷であると広く認識されている。 にもかかわらず、その種の刑罰が、死刑よりも軽い罪に対して用いられているのは奇異 としか思えない。このとてつもない過ちに気づかない限り、人間の心は、何事に関して も真実に到達することはまずできないであろう。 (p.99)
公開刑罰について何が問題かといえば、公開されたことによってその人の自尊心が 完全に死んでしまうこと。そのため更生がほとんど無理になってしまうこと。 そして今やTwitterは法律によらない私的裁判の場所になっている?! ここでの問題は、攻撃する人たちは自分がおこなった攻撃に責任を負ってないこと。
攻撃されている側の状況を直接、目にすることがないために、自分がどれだけ残酷なことを しているか実感がないのである。 (p.102)

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4.世界最大のツイッター炎上

2013年12月20日。ある女性が飛行機に乗る直前にtweetした、ちょっと不注意なジョーク。

「アフリカに向かう。エイズにならないことを願う。冗談です。言ってみただけ。なるわけ ない。私、白人だから!」 (p.123)
本人としては「バカな白人ぽいことを言って戯けてみた」感じのようだが、 それがフライト中に大炎上。到着した空港で写真まで撮られて公開されたり、 南アフリカの鉱山王の娘だという(虚偽の)噂が駆け巡ったり。そして伯母から
「この発言は私たち家族の意見とは違っている。この行動によって、お前は家族の名誉を傷 つけてしまった」 (p.140)
ここまで言われてしまったり。
ソーシャル・メディア上では、各人にわかりやすい人格が設定され、そのために 劇的なことが起きやすい。毎日のように、傑出した英雄や、許しがたい悪党が新たに現れる。 白黒がはっきりしていてわかりやすいが、現実の人間とはかけ離れている。なぜ、そのよう な短絡的な判断をしてしまい、皆が極端な行動に走りがちになるのか。どうすれば、この状 況から抜け出せるのか。 (p.143)
反対に、ネット上で攻撃する人たちについては:
犠牲者がその後、どうなったか には関心がないのだ。ただ、集団発狂のような状況に快感を覚えているだけだ。大勢が一斉 に行動することで、とてつもないことが起きるのを楽しんでいるのに、その楽しみに犠牲が 伴っていることを知って水を差されたくない。 (p.145)

 公開羞恥刑についてはそれを好んで課す判事もいて、彼らは羞恥刑が効果的だと主張する。 だが羞恥刑の対象となるのは初犯が多く、別に羞恥刑やらなくてももともと常習犯よりも 再犯率は低いのでは? との疑念もあり、何とも言えないところか。この裁判における公開羞恥刑と、 ネットにおける公開羞恥刑は何が違うのか。

「ただ、そこには少なくとも一定の規則というものがあります。被疑者にも基本的人権が与 えられている。そのことが重要です。正式な裁判を受ける権利も保証されている。ところが、 インターネット上で被疑者になると、人権をすべて奪われてしまう。当然、結果はより悪い ものになります。世界中の人々から、時間の制限なく責められ続けることになる」 (p.164)

 余談。Twitter初期の頃にこんな感じに言う人がいたぜ、という話を:

「フェイスブックは友人に嘘をつく場所で、ツイッターは見知らぬ他人に本音を話すとこ ろ」 (p.161)
日本でもよく「ガチな相談は友達にはできない。見ず知らずの相手のほうが 相談しやすい」的な話を耳にしたような記憶があるんですけど。それって、日本だけの 話かと思ってましたけど、外国でも案外そんな感じなんですね! 閑話休題。

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5.原因は群衆心理にあるのか?

群衆心理、集団発狂とは19世紀フランスから出てきた考え方で、

一つの 場に大勢の人間がいると、感情が人から人へと伝染する。あらゆる暴動の背後には、必ず、 そういう感情の伝染がある。だから、一人でいる時には夢にも思わないような暴力を、集団 だと振るってしまうことがあるのだ。 (p.168)
そしてこういう傾向を逆手に取れば‥
「群衆を動かすには、感情を煽るしかない。物事を誇張して話す。言い切る。そして繰り返 して言う。決して、自分の言っていることの正しさを論理的に証明するようなことをしては いけない」 (p.177)
ははーん。まるで韓国の慰安婦問題についての主張はまさにこのパターン。

 この群衆心理説を補強するのが、1971年ジンバルドーの実験(スタンフォード監獄実験)。 模擬刑務所で、被験者を看守役と囚人役に分けて役割を演じてもらったところ、一週間ほどで 看守役の被験者たちが暴力的になってしまって実験を中止した、というもの。

 しかし実験の詳細を調べると、9人いた看守役のうち暴力的になったとされたのは一人だけ。 しかもその一人も、インタビューによれば以下:

「普段は善良で分別のある人間をひどい状況下に置くと、突然、邪悪な人間に変身する、そ れを証明するための実験だったんですが、そんなことは簡単には起きないでしょう。‥(略)‥ 私はこう思いました。きっとこの実験のために誰かが大金を注ぎ込んだんだろう。なのに、 このままだと大した結果は何も得られない。そこで、自分で行動を起こしてみることにした んですよ‥(略)‥ 自分で こういう人間を演じようと考え、その考えを実行に移したんですね。無意識ではまったくあり ません。あの時は自分で良いことをしているつもりでしたね」 (pp.185--187)
これってまさに「忖度」‥。 ここでのポイントは「演じていた」ということより「良いことをしているつもり」 のところ(ジンバルドー氏はこれを否定している)。発狂したり邪悪になるのではなく、 良かれと分別を働かせた(つもりの)結果、そういう行動をしていること。
どれほど暴力的な群衆であっても、ただ無秩序に暴れるわけではありません。必ずパター ンがあります。そのパターンには、何と言うか、大きな『信念体系』のようなものが反映さ れます。不思議なのは、リーダーがどこにもいなくても、群衆が自らある程度、知性的に、 集団の構成員の普段の思想に沿って行動できるということです。感情が人から人へ伝染して 狂った行動をとっているのではありません。 (p.190; 心理学者から筆者へのメール)

 大群衆の中にいると、普段よりも感情の制御が難しくなる。‥このことは スポーツ観戦、私の場合は東北楽天の試合を見に行くとよく体験します。 大歓声に包まれると、なんか普段よりもエキサイトしてしまうんですよね。 その体験があると上で説明された「群衆心理」は非常に腑に落ちるんですけど、 看守役の暴走とかの話になると、なんかちょっと話がズレてるのかな、 別の話になってるなー、と思わないこともありません。けど皆がなんとなく忖度して 知性的に動くという話は興味深いですね。「忖度」は万国共通ということ?!

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6.善意の行動

2013年3月17日。とある技術者向けの会議にて。そこで他愛もない下ネタの冗談を 思いついてそれを隣にいた友人に小声で話して、二人で小声でクスクス笑っていた‥。 ありがちな日常。しかし、前の席にすわった女性にはその声が聞こえていて、 そのことが自分らの顔写真つきで tweet されてしまった! そしてそのせいで、なんと会社をクビになってしまったのだ!! (@_@;

 その後、事態は急変。たかがそんなことで会社をクビにするなんて! という非難と攻撃が そのtweet女性に向かい、なんとその女性も会社をクビに(さらに、クビになった後も 攻撃は執拗に続いた。どうやら彼女は不遇な人生を送ってきたようで、そのせいで 被害妄想的になりがちなところがあったが、それが災いを招いてしまった?)。

一件に関わった人たちは、皆、「自分は良いことをして いる」と思っていたように見える。だが、結局は、人間の想像力の限界が明らかになっただ けではないだろうか。誰かの言動に問題があると思っても、それに対してできることには限 りがある。 (p.237)

 余談。

閑話休題。

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7.恥のない夢の世界への旅

2008年3月。FIA会長がナチス風SM乱交を楽しんでいる! とのスクープ!! (写真つき)

 それで会長の人生は破綻? いやいや。 社会的地位は変わらず、逆に世間から人気者となったのだ。何故? 堂々としていたから?? 実際、事件発覚後のラジオインタビューでは

「確かに自分の性 生活は奇妙なものかもしれない。しかし、セックスの時には誰もが多かれ少なかれ妙なこと をするものではないだろうか。それだからと言って、その人の価値が少しでも下がるなどと 思うのは愚か者だけだろう」 (pp.252--253)
とじつに正論を述べてるし、それに「スクープでは『ナチス風SM』と報道されたが、 そうではない、単なるドイツ風SMだ!」と裁判まで起こして勝訴したし。‥ しかし実のところ、本人もなぜ自分が助かったのか、わからないまま。以下も推測の域を出ない:
「公開羞恥刑は、刑を受ける者が恥ずかしいと思うから成り立つものです。当人が恥かしい と感じなければ、すべては崩れます」 (p.273)

 余談。「恥をかかせる」が実際の戦略として用いられた例として、米GM社が、 シートベルトの標準装備を義務付ける法律を求める弁護士ネーダーの活動をつぶすための 戦略(1961頃?)が紹介されています(p.249)。売春婦を雇ってハニートラップを仕掛けたりとか、 「マジかよ!」と言いたくなる感じです。 閑話休題。

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8.徹底的な正直さ

恥を心の内側にとどめておくと、その恥は成長してしまう --- そうさせないため、 「人に知られたくないこと」を自分から他人に話してしまおう、そんなセミナー。 それは大きな冒険であり、だから多くの人たちには、なかなか‥。

 多くの人たちがその一歩を進めない件に関連した研究。それは男性の91%、女性だと84%の人が 誰かを殺す想像をしたことがあるというもの(p.295)。 逆に言えば「殺してやる」と思っても実行する人はきわめて稀ということ。人の自制心の強さ。 殺意の契機のほとんどが「笑われた」「無能扱いされた」「侮辱された」系。

大半は侮辱されたので、報復したいと思ったと いうことのようだ。これで、人を侮辱することの恐ろしさがよくわかる。‥(略)‥ 「恥を心の内側にとどめておくと、それは成長してしまう」とい うことだ。屈辱を受けた時に何も言わずにいると、思考が過激化してしまう。 (p.297)

 正直に話をしようとした筆者は、しかし「自分には他人に告白するほどの恥がない」と 話し、非難されて正直にマジ切れ‥。正直さのコントロールは案外難しいということ?

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9.売春婦の顧客リスト

アメリカのとある田舎町で、売春婦の顧客リストが押収され、2013年に公開。 そこには牧師弁護士教師元町長などの男68名・女1名の名前があった。 公開羞恥刑の予感。‥しかし案外、大騒ぎにはならなかった。 牧師は妻に去られ職も失ない、町の人たちから冷たくされたものの、 それ以上のこと、つまりネット上ではありがちな「晒しあげ」などの公開羞恥刑めいた 事態は起こらなかった。

 今の時代は、セックス・スキャンダルよりも、仕事の上での不正や、人種差別的な発言の 方が重く見られる。マックス・モズレーがなぜ、公開羞恥刑を免れたのか、その理由が突如 としてわかった気がした。結局、誰も彼の行動を気にしなかったというだけだ。モズレーは 男性であり、セックスも相手と合意済みのことだった。その場合、彼を晒し者にして罰しな くては、と思う人は少ないのだ。‥(略)‥ 「スキャンダルにも色々あるけれ ど、男性が合意の上でセックスをしている場合、セックス・スキャンダルは攻撃されないん です。第一、自分も同じことをしたいと望んでいる人が多いでしょうからね」 (pp.321--322)
すこし前の常識では、文書の捏造、人種差別的ともとれる発言よりも、セックススキャンダルの ほうがはるかに恥ずかしい行為であったが、時代とともに「恥」の対象が変わっている。
 今、どういう行為が恥とみなされ攻撃を受けるかは、ツイッターなどSNSのユーザーた ちの考えに大きく左右される。SNSのユーザーの多くが「これは許せない」とみなし、排 除に動けば、標的となった人間は破滅してしまう。何を許せないとするかには一定のコンセ ンサスがあるが、司法の判断やマスメディアの主張はそれにほとんど影響を与えない。だか らこそ非常に恐ろしいとも言える。 (p.325)
 私たちは日々、他人の何気ない言動に傷つき、屈辱を受けながら生きている。他人にとっ ては大して意味はなくても、傷ついてしまうことはある。人間は皆、「傷つきやすさ」が服 を着て歩いているようなものだ。何がきっかけで傷つくかは誰にも予想ができない。 (p.328)

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10.独白劇の捏造

中国深圳にあるApple社の工場に起こった健康被害をテーマにして話題となった独白劇、 その中で証言した人物が架空の人物、つまり捏造だったことが発覚(2012/3):

「彼らは謝罪を求めているのかと思いましたが、でもそうではありませんでした。‥(略)‥ 彼らが求めていたのは、私の破滅です。私に死んで欲しいと思っていたのです。もちろん、 口に出してそんなことは言いません。言えばあまりに非常識ということになりますからね。」 (pp.331--332)
激しい攻撃を受け、自殺さえも考えたというが、そののち 一人でバッシングに立ち向かい、難局を乗り越えてしまった。 どうやって?‥ たしかに登場人物は架空だが、中国の工場で起こっている健康被害は事実だから。 それを告発して社会正義を実現するためには、自分ひとりの犠牲などは仕方ない! ‥ そんな物語を作って、自分をそのヒーローに据えたのではないか。
「人間の意識というのは、自分で自分に物語を語ることで作られていくのですね。自分はこ ういう人間だという物語を、信じて自分に語っていれば、本当に自分の中ではそういう人間 になっていく。誰かがSNSなどで公開羞恥刑に遭う時には、本人が書こうとする自分につ いての物語と、社会がその人について書こうとする物語の間に衝突が起きているのでしょう。 どちらも相手の物語を上書きしようとする。‥(略)‥ 他人から勝手に自分の物語を押しつけられても相手にして はいけない。押しつけの物語はなんとしても無視するんです。少しでもそんな物語を信じた ら、身の破滅になります」 (pp.348--349)

 「忘れられる権利」。是非はあっても、犯罪を犯したわけではないが公開羞恥刑を 受けてしまった人はそれで救済されて当然じゃね? 的な。

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11.グーグルの検索結果を操作する男

2012年10月。アメリカのアーリントン国立墓地の「静寂と敬意を」の掲示の前で 叫び、中指をつきたてるジョーク写真。これをFacebookに掲載したところ、案の定、炎上 (いわゆる「バカッター」のアメリカ版ですね、これ)。 ネット上のみならずテレビカメラが自宅にまで来る大騒ぎ、そして勤めていたNPOをクビに。 そして失業した後も非難殺到‥。

彼女はインターネットで自分の名 前を検索し、全米各地のリンゼー・ストーンが、同姓同名の他人にもかかわらずひどい目に 遭っていることを知った。 (p.366)
投稿した問題の写真はあちこちに広まっていた。 アメリカの退役軍人や右派、アンチフェミニスト たちにとっては、一種の象徴とも言える写真とな っていた。自分の愛国心を示すために、彼女が墓 地の表示の前で中指を立てて叫んでいる写真を、 コンピュータやスマートフォンの壁紙として使う 人まで現れた。 (p.367)
その後、新しい職についたが、いつ例の写真のことがバレるのか。 毎日を不安に過ごしている。

 それはそうと。Googleの検索結果を変える技術を持った人たち・会社もある (SEOの一種といって良さそう)。 ネット上で悪名が流れてしまった後に、その人たちにとって都合のよいことが書かれた ブログやサイトなどがGoogleの検索結果上位を埋め尽くすよう仕組んでいる、 「インターネット上の情報を裏で操作している」人たちである。 いわば力づくで「忘れられる権利」を実現する人たち、とも言えそう。

 筆者は、国立墓地で中指をつきたてたストーンについての情報操作デモを依頼する (普通なら何十万ドルもかかる要件と書いてある! 高ッッ!! p.390)。

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12.法廷での羞恥

ある弁護士からの情報によれば、法廷では人を晒し者にして屈辱を与える戦法が よく使われるとのこと。その主なターゲットは、法廷で専門家として証言する人たち。 つまり敵対する側の証人の足を引っ張り、裁判を有利に進めたいとの思惑。 その戦法として羞恥を与える方法が非常に有効とのこと。 はじめて法廷で証言する専門家のための講座では、ほぼ丸一日が羞恥戦法対策。 弁護士に質問されたときはその弁護士ではなく裁判官に顔を向けて答えるべき、など。 そして模擬裁判での練習。

マシューは一五分ほど、そのまま証人を演じ続けた。腐食コイルについての話を小声でし ていたが、その時の顔色はまるで錆びついた貨物コンテナのような赤だった。唇は乾き、声 は震えていた。まったく酷い状態だったと言えるだろう。
「弱いな」私は心の中でそう思っていた。「ちょっと弱すぎる」
 だが、やがて我に返った。自分がいかに人を表面的なことで判断しているかに気づいて驚 いてしまった。その人が何を言っているのか、何を知っているかで判断せず、ただうろたえ て見えるというだけで、勝手に「この人はだめだ」と決めてしまっていたのだ。 (pp.406--407)
恥をかき、うろたえている人を見ると、やはり その人に何か非があるように見えてしまうのが人間である。 (p.410)
ベテランのジャーナリストでさえハマってしまう罠なんですね。‥というのはさておき。 このような「相手に恥をかかせて不利な立場に追い込む戦略」は、ネットにおける 公開羞恥刑と同じなのか? それは避けられないのか??

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13.恥なき世界

1970年代アメリカ。マサチューセッツ州の刑務所などでは自殺・殺人・暴動・誘拐・放火などの 事件が相次いでいた。その原因究明のためのチームが気づいたこと。

  • 彼らはすでに自分の内面が死んでいると感じていた。 自傷は、自分に感覚がまだ残ってるかを確認するための行為
  • 自分の身体は空っぽ、血管も神経もなく、ただ紐や糸があるだけ‥
  • 犯罪者たちは、自分のことをいつも恥じている。
  • 「誰かに銃口を向けると、その相手から尊敬されているように感じる」 (p.424)
「私が確認した範囲では、重大な暴力犯罪の背後には、必ず恥の感情がある。恥をかかされ た、屈辱を与えられた、軽蔑された、嘲笑われた、そういう経験が背後に必ずある。‥(略)‥ 大人になってから頻繁に凶暴な振る舞いをした者たちは、ほぼ例外 なく、子供の頃に絶え間なく暴力的な虐待を受けていた者たちである。」
「あらゆる暴力は、その被害者から自尊心を奪い、代わりに恥の感情を植えつける。それは 事実上、その人を殺すのと同じだ」 (p.424)
つまり親から子への暴力、看守から囚人への暴力。これが凶悪犯罪が頻発する原因としか 考えられない、と。
「恥」を感情と呼ぶのは、矛盾したことかもしれない。恥は苦痛を呼ぶ。そして、自分 を絶えず恥じていると、その人の感情は死んでしまう。恥が感情を殺すのだ。その恥を 感情と呼ぶのは奇妙だ。‥(略)‥ とてつもなく酷い恥を経験すると、人は感情の欠如した状態にな ってしまう。感情の死だ。 (p.427; ギリガン『暴力』からの引用)
ひどい羞恥を受けると、感情のスイッチが切れてしまう。‥ これは脳がある種の限界を超えてしまったということなんでしょうか。

 ネットの公開羞恥刑を受けてボロボロになってしまった人について

彼女は一年近くもの間、一日中、ただキッ チンのテーブルに向かって座り、自分と同じようにネット上で公開羞恥刑に遭う人たちを見 つめていた。
「その状況だと人間は自分の中から抜け出してしまいます」マッグリービーはそう言った。
「囚人たちから私は何度も同じことを言われました。自分は扉を閉ざしている、自分の周り に壁を作っているように感じると」 (p.434)
それは結局、刑務所に入って感情をなくした囚人たちと同じじゃん、と。 つまり、どうにかして感情を取り戻すようケアする人が必要、なんでしょうか。

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14.猫とアイスクリームと音楽と

11.のストーンの話の続報。 たった5秒ほどの気の迷いのせいでストーン氏は人生が破綻した訳だが、 アメリカに60人ほどいる同姓同名のストーンさんたちも同じような目で見られてしまう。 彼女たちのネット上での評判をどう変えるのか。

 グーグルがユーザーの視点の移動を調査した結果によると、五三パーセントのユーザーは 検索結果のうち上位二つだけを見ているという。そして、八九パーセントのユーザーは、検 索結果の二ページ目以降を見ないという。
「検索結果の一ページ目がどうなっているかで、その人に対する世間の人々の印象がほぼ決 まってしまうということです」 (p.450)
‥ 予想どおり、完全にSEOですよね。 検索結果の上位にくるやつを人畜無害な情報だけにしてしまって、 人々が持っていた強烈な否定的印象を忘れさせよう、そういう戦法ですね。
ストーンが大勢の怒りを買い、苦境に陥ったのは、少し悪ふざけがすぎたからであり、そ の悪ふざけを向こう見ずにも、大勢の人の目に触れさせてしまったからである。さすがに今 は慎重になっている。穏当なことしか言わない。猫とアイスクリームが好き、ヒットチャー トのトップ40に入る曲が好き、無難なことばかりだ。
 私たちがインターネットの出現以後、作り上げた世界は、ただ愛想良く無難に振る舞って いるのが一番賢い---そういう世界のようである。 (p.452)
無難なことしか書けないんだったら、もう、書かないってことでいいじゃん! 無難な情報だけ書いてれば攻撃されにくいのは確かだけど、でもそれだと ネット上での存在感は限りなくゼロに近いじゃん、それだったら 書いても書かなくても同じだよ! 実質、存在してないのと同じだから!! ‥ そう思ってしまうんですけど、んー。なかなか、そういう訳にもいかないですよね。 自分も含めて。

 ところで逆に、SEO的に検索結果の順位を操作しようとするのは「言論の自由の侵害だ」 と文句を言う人もいるみたいだが‥。

「皆、電話番号を変えますし、家か ら一歩も出ない人も多いです。そして心理療法を受けます。PTSDの兆候を示す人がいま すから。‥(略)‥ 誰もが常に監 視されているような気持ちで暮らしている。自分らしく自然に振る舞うことが怖くなるよう な社会になっています」 (p.458)
そんな感じになってしまった人が やり直す権利は当然あってしかるべきだろうと。

 そしてストーン氏に関するネット上の否定的な情報は、その会社の活躍により、 ほぼ埋もれてしまっていた。すごい‥

[Table of Contents]

15.あなたの現在の速度

もう一度、本書のテーマのおさらいを:

今、ごく普通の市民が、過ちを犯した人間を公開羞恥刑にするということ が起きている。しかも刑の重さを、裁判所など公的な機関の関与なしに市民が自由に決めて しまっている。なろうと思えばどれだけ冷酷にもなれる。ともかく自分の気の済むまで「犯 人」を痛めつけることができるのだ。 (pp.469--470)
ネットは自由なようでいて、情報の流れ全体はごく一部の大企業に握られている。 2013年12月、グーグルの検索は122億回行われ、同社の広告収入は46億9千万ドルだから、 つまり検索一回あたり平均0.38ドルの広告収入があったということ(p.471; すごいな)。 ネット上で炎上が起こったら、結果的にグーグルは儲けてしまう。 攻撃する人たちは、無給のグーグルのインターンかよ!! (‥いや、 これは本に書いてることであって、私が言ってるのではありませんから! >グーグル様)

 でも。なぜ人は攻撃してしまうのか。 ここで筆者が提示するのが「フィードバック・ループ」というもの。 フィードバック・ループの説明として、アメリカにある Your Speed という道路標識 (車の走行速度をリアルタイムで表示する、それだけの標識)が、とくに何の罰則もないのに 非常に効果的だった例をあげたのち(p.474)、

「フィードバック・ループのせいで、SNSは巨大なエコー・チェンバー(共鳴室)のよう になっています。自分と考えが同じ人たちとばかり接することで、自分は正しいという信念 が絶えず強化されていく、という環境になっているのです‥(略)‥ 『ワイアード』誌に多く登場するようなテクノロジー至上主義の人たちは、SNSのこう した状況を民主主義の新たな形態とみなしているようです‥(略)‥ でも、そうではないのです。その逆です。皆、自分の作った世界に閉じこもり、異質なも のを目にすることがなくなってしまう。フィードバックによる強化のシステムの中に囚われ てしまうんです。自分とは別の考え方を持つ人たちの別の世界が存在するという考えが、頭 から抜け落ちる」 (pp.479--480)
これは同意できますね。 以前「インターネットは人の嗜好(思考)を極端にしていく」事実に気づいて驚愕した 経験がありましたし、「ネット上では人は見たいものだけを見る。見るものが多すぎて、 見たくないものまで見てる時間がない」のもネット通販で買物するときの経験から よく知ってます(自分の意にそぐわない「商品へのコメント」は無視か軽視!)。 ネット上の人間関係だって、自然にそうなりますよね。 そうならないように気をつけてるはずなんですけど、やっぱねー。 わざわざ気の合わない人とコミュニケートするのはねー、ちょっと、気は向かないですよね。 んで、いつのまにか思考が偏ってしまってるのに気づかず、つい自分にとっての 「普通」「常識」を他人に押しつけてしまう、と。
「SNSって何だか、とても用心して歩かなくちゃいけない場所になったよね。いつ、何の 理由で怒り出すかわからない、心の平衡を失った親にいつも見張られているみたいで。とに かく、何が原因で攻撃されるかわからないから、怖いよ」 (p.481)


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