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カーマスートラ

泉芳璟訳(1923)。


[前] 1 総説篇

1-1 全巻の総説

[p.17a]

[1]正義と財物と愛慾とに帰敬したてまつる。

[2]そはこの書に於て根本のものであるから。

[3]この真理を証得せる学者たちに帰敬したてまつる。

[4]その親縁であるから。

[5]創造主梵天は人類を造れる後、最初十万章を以てこの三勢力(正義、財物、愛慾)の意義を説いた。

[6]梵天の子マヌはその一部分即ち正義に関するものを別説した。

[7]ブリハスパティは財物に関するものを別説した。

[8]シヴァの従者ナンディーは一千章をして性愛に関する哲学を説いた。

[9]ウツダーラカの子シュヴェータケーツこれを省略して五百章とした。

[10]パンチャーラの人バブルの子バーブラヴィーヤこれを百五十章に短縮し総説篇、性交篇、少女親近篇、妻女篇、他妻親近篇、娼婦 篇、奥義篇の七品とした。

[11-19]ダッタカはパータリプトラの娼婦の請によりてこの中[p.17b]娼婦篇を別説した。同じくチャーラーヤナは総説篇を、スヴァルナナー ブハは性交篇を、グホータカムクハは少女親近篇を、ゴーナルティー ヤは妻女篇を、ゴーニカープトラは他妻親近篇を、クチュマーラは奥 義篇を、それぞれ別説した。かくこの学は多くの学者達によりて説か れたが、殆ど散佚して伝はらない。それはこれらが別々に説かれた からである。それにバブラの子バーブラヴィーヤの書は広漢に過ぎて 学修に適しない。そこでこのカーマスートラ(性愛の学)は各項目を 網羅して而も取り扱ひ易き一巻としたのである。全品の各章各項目は次 の如くである。

[20-24](1)全巻総説、(2)三勢力を得ること、(3)性愛の学及びそれに関係せる学芸、(4)市民の生活、(5)愛人とその媒 介。以上第一品総説篇、五章、五項目。

[25-41](1)性愛の考察、(2)情慾の種々、(3)抱擁の考察、(4)接吻の方法及その部分、(5)爪歯の瘡傷、(6)歯にて咬 まるる部分、(7)地方によりて異る性交の方法、(8)性交の様態種 種、(9)性交の変態種々、(10)興奮の時身体の一部を打つこと、 (11)打撃の苦痛のために叫声を出すこと、(12)性交の予備、 (13)擬男性交法、(14)口唇性交、(15)性交の前後の用意、 (16)性交の種々の名称、(17)情人の喧嘩(いさかい)。以上第二品性交篇、 十章、十七項目。

[42-50](1)少女の選択法、(2)少女親近の決定、(3)少女の信頼を得ること、(4)処女の時より親近を得ること、(5)少女 の愛を示すことを識別すること、(6)男女が媒介者なしに配偶を得 [p.18a]ること、(7)願はしき良人を得る方法、(8)婦人が多くの男子中よ り一人を選ぶ方法、(9)結婚及其の種々。以上第三品 少女親近篇、 五章、九項目。

[51-58](1)貞淑なる妻女の義務、(2)良人の不在中妻女の義務、(3)二妻以上ある場合年長の妻の義務、(4)弱年の妻の義 務、(5)再婚婦人の為すべきこと、(6)愛を失ひたる妻の義務、 (7)王者貴族が後宮に対する義務、(8)数妻を有する夫の義務。 以上第四品妻女篇、二章、八項目。

[59-68](1)性来婦人を惹きつける男子、(2)容易に得らるべき性質の婦人、(3)婦女の親近を得る捷径、(4)婦女の愛を得る ために男子の為すべきこと、(5)動作態度其他の標号にて婦人の意 を知ること、(6)恋の使ひなる婦人の役目、(7)貴族王者の為す方 法、(8)貴族王者の後宮の婦人、(9)自己の妻を他の誘惑に対して 保護すること。以上第五品他妻親近篇、六章、十項目。

[69-80](1)娼婦の求むる男子、(2)選択の理由、(3)情人を悦ばしむる方法、(4)娼婦が情人を安全に惹きつけて逃さぬ方 法、(5)情人より金銭を引出す方法、(6)情人の愛の去りしを知る 法、(7)愛の去りし情人をして再び愛せしむる方法、(8)好まざる 情人、若くは巳に金銭を蕩尽せし情人を穏かに遠くる法、(9)曾て 遠けし情人と必要な場合情交を回復すること、(10)多くの中よ り一人を選ぶ場合異りたる利益の考察、及び情人の決定せぬ場合、 (11)富めると貧しきとによつて情人を決定し得ざる場合の考察、 (12)娼婦の種々。以上第六品娼婦篇、六章、十二項目。 [p.18b]

[81-86](1)美貌保全法、(2)呪術、薬物等にて愛人を蟲惑する方法、(3)性交に於ける精力を保つ法、(4)減退せる精力を回 復する法、(5)生殖器を強大ならしむる法、(6)奇なる薬物。以上 第七品奥義篇、二章、六項目。全編終。全編三十六章、六十四項目、 七品、一千二百五十頌。

[87]性愛の学の総説がかやうに記された。その詳細は次章以下に取扱はれる、学者はこの書の題目の詳細と共に簡約を尚ぶから。

 以上聖ヴァーッチャーヤナの性愛の学第一品総説篇の中、第一章全巻総説終。

[次] 1-2 三勢力を得ること(1)