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カーマスートラ

泉芳璟訳(1923)。


[前] 2-2 抱擁

2-3 接吻の種々

[1]接吻と、爪の掻傷と、派の咬傷との動作の中に前後の順序はない。依て以てなさるる最も強烈な性情には順序がないから。 [p.39a]

[2]然しそこに特殊性がある。この三種の動作は主として性交の前になされる。打撃と呻吟とは性交の時になされる。

[3]ヴァーッチャーヤナはこれら総ての動作は何時にても可能であると考える。蓋し性情は他の状態に関係がないから。

[4]男子が始めて女子と性交をなす時は甚しくこれらの動作をなしてはならぬ。女子が馴るるに随つて順次これらの動作をなすべきで ある。これらは性情の過程である。

[5]性交の始められし後これらは単一に或は相並んで性情を熾んにし保つために急速になすべきである。

[6]接吻せらるべき部分は額、前髪、頬、眼、胸、乳房、唇 口腔内部である。

[7]腿関節、腋下、臍の下部も亦ラータ(地方)のものは接吻することを好む。

[8]これら及び其他の部分の性情の極致に達せし時若くは地方の習慣では接吻すべきだ。然し他の地方のものは模倣してはいけない。か くヴァーッチャーヤナは云ふ。 [p.39b]

[9]処女の接吻は次の三種である。(1)ニミッタカム (2)スプフリタカム (3)グハッティタカム。

[10]接吻を強ゐられて女は口を情人の口に置く。然し唇を動かすことをしない。これがニミッタカム(据え置き)である。

[11]情人の唇が女の口に挿入される。少女は恰もこれを保持せんとするものの如く下唇部を少しく動かす。然し恥じらひのために上唇部 は動かさない。この動作をスプリタカム(震動)と云ふ。

[12]情人の唇を女は上下唇で少しく支え眼を閉ぢ手を以て眼を覆ひ下の尖端にて男の唇を押し付ける。この動作をグハッティタカム (押へ付け)と云ふ。

[13]下唇で対手の両唇をつかむ接吻に更に次の四種がある。(1)サマ(直)男女相面して唇を真直に合せ含む、(2)テイリヤック (曲)顔を側面へ向け対手の唇が円形になつて含まれる、(3)ウッ [p.40a]トブラーンタカム(回転)一方の手で頭を他の手で頭を支へ対手の 顔を回転して唇を合す、(4)ピーディタカム(圧)唇が幾分押し つけられること。

[14]一人が対手の下唇を拇指と食指の間に押し付けて保持しそれを歯にかけずに両唇でもつて引き出しつつかむ。これをアヴピーディ タカムと云ふ。これは第五の変態である。この動作に特殊なること は唇を引き出すにある。

[15]男女が接吻によって一種の賭をやることもある。

[16]男女の孰れかが先に対手の下唇を捉へる。捉へた方が勝である。

[17]若し女が負ければ泣いて手を打ち振り男を突き噛み争ふであらう。而して更に勝負をと請求する。かくて再び負ければ更に前より 劇しくこれを請求するであらう。

[18]時として狡い方法で女が勝つ。男の暢気で警戒せぬを見て女は[p.40b]男の唇を捉へて離さない。而して大声で負けたことを宣言して打笑 ひ「唇を咬み切ってしまふ」などと彼を威嚇するでもあらう。女は 喜びのあまり踊り上り舞ひ、又もた其の上の勝負を試みる。眉は躍 り眸は震ひ男をからかひて種々のことを云ふでもあらう。かくの如 く接吻の賭事についての情人の争ひは記されてある。

[19]爪の掻傷、歯の咬傷、打撃でなされる痴話喧嘩も亦同様に説明せられる。

[20]これらの情人の争ひは過多の性情と長時の性交に堪へるものによつてのみなされる。蓋しこれらはさうした人々にのみ適当である から。

[21]女が男の下唇を捉へて接吻してゐる間に男も亦(その把持から緩めて)女の上唇を捉へて接吻する。これをウッタラチュンビタと 云ふ。

[22]男が両唇で女の両唇を一所に捉へて接吻することもある。若し男に鬚なくば女も亦同じやうに接吻することが出来る。

[23]上に述べた接吻をしている間に一人は下を対手の口の中に差入[p.41a]れ、その端で歯、上顎、舌を押しつける。双方の舌は互に相交はる。 これをジフヴーユッドハ(舌戦)といふ。

[24]お互の口、舌を捉へ若くは差出すことも同様にして知るべきである。これらはそれぞれ口若くは舌の戦と呼ばれる。

つづいてゐる。