[前] 餓鬼の二種 |
ところで。「プレータ」と関連して 「薛茘多」(へいれいた = preta)という、なかなか難しい漢字を使った単語があるようです。
「薛茘多」で検索するとすぐ出てくるのが以下:
本当かよ?! というのもあって、ちょっと出典を調べてみました。 Wikipedia によれば『仁王経合疏』上 に書かれてるらしいんですけど、
佛說仁王護國般若波羅蜜經疏卷上 (卍続513)こんな感じの文書が『大日本続蔵経 26』に入っていて、 これがその『仁王経合疏』のようです。「智者大師」と書いてありますから、 かの天台智顗による注釈ということですよね。6世紀。
姚秦三藏法師鳩摩羅什 譯
陳隋 天台 智者大師 疏
閩建州後學沙門 道霈 合
探してみると、これですね:
お、探すと、他の仁王経疏にも同じような説明がありますね。 吉藏撰とありますので、 これもやはり6〜7世紀か。
‥んー。たしかに仁王経に対する中国産の注釈文献(6〜7世紀)では 「薛茘多は増長天に従う」と書かれてることは確認できましたけど。でもなー。 単に列挙されてるだけ、という感じですから。 なんか「そういう設定になってます」レベル以上のものが感じられないのはちょっと 物足りないなー。
[Table of Contents]それと ちょっと気になるのは、龍鬼八部衆として列挙されてる他の項目です。 ガンダルバ、ピシャーチャ、龍、夜叉、羅刹‥完全に「人間以外の何か、な者たち」 ばっかりですよね。つまりここでの「薛茘多」も同じように「人間以外の何か」として ここに列挙されてる可能性が高そうですよね。 昔の中国はやはり親とか祖先に対する孝の意識は高そうですから 「薛茘多は preta で人(祖先)の死後だ」ともし知っていたら、 そんなピシャーチャとか夜叉・羅刹とpretaを一緒の扱いにはしないんじゃないかなー、 つまり中国人は 「薛茘多」と「餓鬼」と「祖先」は別物と考えてたんじゃないかなー。‥なんて ことを思ったりするんですけど、どうなんでしょう?
まとめると。ここで「薛茘多」を龍鬼八部衆に割り振った人たちが、 「薛茘多」が餓鬼や祖先と同じと認識していたかどうかは不明ですけど。いずれにせよ、 ここで餓鬼が「人の死後」をはなれて「人となんかちがう化物」に、ついに なったんですね! それが遅くとも6〜7世紀(南北朝〜隋)の中国!
[次] 註 |