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ところで。「望仏」をさらに読み進めていくと、餓鬼には 何やら種類があることが書かれています。こんな感じ:
ここでは餓鬼には「有威徳」「無威徳」の2種類があることが 述べられていて、そして我々が普通「餓鬼」といわれてイメージするのは たぶん「無威徳」のほう‥ですよね? そして、それとは違う 「有威徳」な餓鬼も存在すると書かれています。花が咲いたり、 実がなったりする樹々の上にいたり、清浄な場所にいて さまざまな福楽を受ける --- なんか「楽しげな樹々の精霊たち」的な 感じでしょうか。そんな感じの「餓鬼」も想定されてるみたいです。
もちろん、この手の有威徳餓鬼の存在についても、 餓鬼が「亡者=preta」のことである、という元々の意味を知ってる人たちからすれば、 まあ、存在して当然のものではありますけどね。生前きちんと善業を積んだ人であれば 有威徳餓鬼となって諸福楽を享受できる‥そんなご褒美でもなければ 善業を積もうとする人なんて出てこないですからね。宗教として成り立たないから‥。 (というか、ここでは「餓鬼」という語は使われてなくてただ「鬼」とだけ 書かれてますよね。これを訳した玄奘三蔵法師は当然「亡者=preta」というのを 知っていたのでここでの preta を「餓鬼」とは訳さなかったんでしょうね)
[Table of Contents]望仏によれば「大智度論」にも似たことが書かれてます:
ここでちょっと気になったのは「弊鬼」です。これ、 先ほど紹介した「阿毘達磨大毘婆沙論」の「有威徳」に対応してるのは 明らかだと思うんですけど。 「『弊』って『へい』だから preta の pre じゃねえの?」と気になって 仕方ないんですけど、原語はどうなってるんでしょうかね??? ‥というのは さておき。 ここでは2種類ある「鬼」のうち、悪い方、そして我々がよく知ってるほうの 「無威徳」の鬼だけが「餓鬼」と呼ばれてます。これはスッキリしてて わかりやすいな。こんな感じで「鬼」と「餓鬼」をハッキリと分けてしまうのが 一番いいんですけどね。なんでここでの「鬼」全体を「餓鬼」と呼んでしまう 説明が多いんでしょうか。またここで紹介されてる「有威徳な鬼」「弊鬼」らは 「六道」の体系の中、いったいどこに行ってしまったのでしょうか‥[*註]
[Table of Contents]ところで。上で紹介した「大智度論」のあたりを見ると、 いわゆる「六道」の設定が完全に固まる前に書かれたか? と感じさせる記述があります。 たとえば以下:
‥五道(六道マイナス阿修羅道)の順番で「餓鬼」が「畜生」より上位にあったり、 「地獄」の分類が大雑把で3種類になっているなど、整理された「六道」の設定とは ちょっと違うものが述べられていて、だから六道の整理された設定が広まる前の 状況がここで説明されてるのでは? なんて妄想を持ってしまうんですけど。
この妄想どおりであれば、まず当初 「鬼」もしくは「餓鬼」には2種類のものがあって 「人の生前の行為によって良いほうか悪い方に振り分けられてる」感じにイメージされていた のは確かだと思うんですけど。後に「六道」の概念が生まれ整理されるとともに 「鬼」のうち悪いほう、「無威徳の鬼」「餓鬼」を「悪趣」に入れるのは良いとして、 良い方の「有威徳な鬼」「弊鬼」はどうするの?? という 葛藤みたいなものが出てきたとき、その位置づけは「天」に似てるし‥ ということでたぶん「天」に吸収合併される形で自然消滅してしまった(ので 餓鬼と同じ世界に留まる設定だった「弊鬼」も、 十分な善業を積めば「天界」に行けることになった?)んですかね。
そして「餓鬼」という単語は「鬼=preta のうち無威徳のほう」を「単なる鬼=preta」と ハッキリ区別するため翻訳者が(気をきかせて)「餓」という漢字を添えて区別つけやすく したものという可能性はないですかね? ただ、その書き分け漢訳独自の工夫にすぎず、 もとのサンスクリットでは「鬼」も「餓鬼」も同じ preta という単語だったため、 後になると どちらも同じ「餓鬼」と訳されるようになり なんか訳わからなくなってしまったものの、そもそも「餓鬼」なんてものは 仏教の教義体系の中では「極めて どーでもいいもの」だったので あまり問題にならないまま現在に至る、とかそんな感じなんでしょうかね。 (私の根拠なき妄想ここまで)
んで。各文献における「鬼」「餓鬼」の扱いがグチャグチャな状況をふまえて。
私のサイトにおける表記も、
かなりグチャグチャになっていることをご了承ください(^_^;
この「有威徳の鬼」と同様の鬼たち、つまり「惨めじゃない鬼」について。どうやら 根本有部律、アヴァダーナシャタカ(Av)等に出てくる、 漢字で「飛行餓鬼」「天宮餓鬼」と書かれている餓鬼どももそんな感じ、すなわち、 惨めな境遇にいる訳ではない餓鬼らしいです[*註]。
(このへんに petavatthu に出てくる「天宮餓鬼」についての描写を入れる予定で 準備してたんですけど、せっかく作ったメモがどこかに行ってしまった‥)
(書きかけ)
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