[Top]

盂蘭盆経について

佛説盂蘭盆經 (大正0685) に関する「めも」です。


[前] 盆はやはり容器くさい

語源ソグド語説

[Table of Contents]

「盂蘭盆」はシルクロード商人経由?

 (前ページからの、つづき) そしてさらに。「盆は盆器」と考えられた理由が、 「盂蘭盆」という単語の最後の文字が「盆」だから、というものであるなら。 つまり「盂蘭盆」という言葉は、インド僧たちも、中国土着の人たちも、 その単語の起源を知らない。そんなどこか遠くから来た、 摩訶不思議な言葉だということになるわけです。 (さらに岩本1979は、北方遊牧民、チベット‥などの可能性を消していき、さらに 7月15日という日付から、盂蘭盆と夏の収穫、もっと言うと「麦・畑作の収穫祭」との関連を 想定していきます。また本来は自恣とも中元とも関係なかったはずの「先祖祭」を これら行事と結びつけ得るのは誰か、についての考察を行っています。 このへん、ものすごく念入りに議論してます。pp.232--)

 そんなこんなで浮かび上がってくるのがソグド人と呼ばれる人たちです。 サマルカンド近辺に起源をもつイラン系ペルシア系の人たちで、最も古く文化交流史に登場し、 「早くから商人として中国に進出していた」(p.238) 「かれらは西暦1世紀ごろには中国に進出しており、5世紀ごろには 現在の甘粛省凉州にソグド人の植民地のあったことが知られている」(p.239)、 「5世紀には現在の甘粛省凉州に相当に多くのソグド人の居留民のいたことが 中国の史書に記されている」(p.323)、 そんな人たちです。 ちなみに五世紀というのは中国南北朝・北魏の時期で、 北魏が華北統一した時期(統一は442年)に当たります。 北魏というと、中国で仏教文化が大きく花開いた時代ですね。

 ちなみに唐代・玄宗皇帝に使えて叛乱をおこした安禄山(8世紀;盛唐)は突厥とソグドの混血 ですけど‥ そう言われてもピンと来ないですね(^_^;


 他に何か「ソグド人」でピンと来そうなのは‥と探してみたら諸星大二郎『西遊妖猿伝 西域篇』 というマンガが出てきましたので、それを紹介しておきたいと思います。 このマンガ、完全なフィクションかつ冒険活劇ではありますけど、 7世紀前半(初唐)の西域のオアシス都市を舞台にして トルコ系の突厥、楼蘭の末裔の鄯善系、そしてソグド人といった人たちが たくさん登場していて「ああ、こういう雰囲気だったのかな」と何となく感じられて 良かったです。作品としても面白いと思うので、オススメです。 完全なフィクションですけどね。

[Table of Contents]

ソグド語「霊魂」が語源? (岩本説)

 そしていよいよ岩本1979の仮説が示されます。

 西暦1世紀から後の数世紀におけるこのような文化交流のあとを考察するとき、 外来語として梵語およびその俗語ないしは中央アジアの諸言語では理解されない 「盂蘭盆」の言語は、イランの言語で「霊魂」を意味するウルヴァン urvan (ソグド語 rw'n, 'rw'n)であったと考えられる。ウルヴァンとは既に ゾロアスター教以前の宗教において弘く「霊魂」の意味する語であるが、 特に「死者の霊魂」を意味し、死後の審判を受けるものとされた。 ある人のウルヴァンは死後にそのフラヴァシ fravaśi と合一すると信ぜられた。 フラヴァシは元来「守護」を意味し、敬虔な信者の霊的な原質をあらわす術語である。 また、時に「守護神」としても表象される。 (岩本裕(1979)『仏教説話研究4地獄めぐりの文学』開明書院., pp.240--241.)
またこのフラヴァシに関するイランの10世紀頃の風習が 「人々は、かれらの亡父祖の霊はこの祭の日の間には果報や処罰の場所を離れて、 供えられた飲食物のところに来て、その力を吸収し、その風味を満喫すると信じている」 (岩本1979.,p.241) というものであり、なんか中国や日本の「盂蘭盆」とソックリじゃん! ということが 示されます。すごい。(‥としか言いようがないです^^)

[次] 物語の発展について