うぱが との であい
伝道の決意を固められた世尊は、
たまたま道ですれちがった修行者ウパガに声をおかけになられます。
「やー、元気そうだね。ぼくガウタマ。よろしく」
「お初にお目にかかります。私はウパガと申す未熟者にござります」
「さっそくだけど、僕さー、永遠不滅の真理を体得したんだけど、
ちょっとボクとお話ししない?」
「(独言)げ。なかなかの男前だし、表情も修行者とは思えないくらい
スッキリしてるから、てっきり、かなりの修行者かと思ったけど、
じつは単なるキチガ○じゃねえか。いかん。
さわらぬ神にたたりなし..」
「あのさー、ぼくさー..」
「へー、真理を体得なされたんですかぁ。すごいですねー。
私はまだ修行をはじめて間がないですから、そんな、
すごい教えを聞いたところで理解なんかできるわけないですし..」
何やら言い訳じみたことを言いながら後ずさりするウパガ。
その様をご覧になられた世尊は、しまった、とお思いになられます。
「だ、だいじょーぶ。ぼくのところ、簡単なのがウリだから。
だからさー...」
「いえいえ。あなた様には簡単でも、私なぞには...」
異様なムードと緊張感が二人のあいだにたちこめます。
「まー、落ち着いて話し合おうじゃないか」
言葉とは裏腹に、獲物をねらう野獣の如くにウパガをお睨みになら
れる世尊。すこしずつ、ウパガとの間合いを詰めようとなさいます。
しかしウパガも世尊のお動きを読んで、じりじり後退していきます。
まさに一触即発の場面。
さきに動かれたのは世尊でした。相手の背後に右手をおまわしになり、
逃げられないようにしてしまおうと考えられたのです。しかし!
この一週間ほど、ずっと瞑想にふけられていた世尊、
急に動かれたために立ちくらみを起こされてしまったのです!
「ああ!」
しゃがみこまれる世尊..
世尊ともあろう方が、ウパガを相手に不覚をとってしまいました。
そのすきにウパガは全速力で逃げていきます。
「うう、しまったぁ..」
立ちくらみのために、しゃがみこんでしまわれた世尊は、
くやしそうに彼の走り去っていた方向に目をお向けになりながら、
捨て台詞、もとい、お慈悲の心からお出になる独言を
おつぶやきになられました。
「ううむ、彼にとっては、じつに惜しいことになったな。
他でもない私自身から真理を聞くチャンスを逃すとは。
後できっと後悔することになるんだろうな、あいつ」
こうして世尊の最初の布教活動は失敗に終わり、
じつに幸先の悪いスタートになってしまいました。
「だからイヤだといったのになー」
グチをこぼされながら、再び歩きはじめられた世尊でした。