[前] 釈迦仏如来入般涅槃之時 |
そのとき。天界にいた摩訶摩耶は、五つの衰退の兆候に気付きます。 すなわち (1)頭上にある花が萎え、(2)脇汗が出、(3)頂中光が消え、 (4)両目を瞬き、(5)いるべき場所にいても落ち着かないのです。
さらにその夜、五大悪夢を見ました。(1)須彌山が崩れて四海の水が なくなってしまう夢、(2)手に鋭利な刀をもつ羅刹どもが人々の眼を 弄ぶものの(?)、黒風が吹くと羅刹どもは雪山に急いで帰っていく夢、 (3)欲界色界の神々が皆 宝冠を失い瓔珞を絶ち、いるべき場所におらず、 身体に光明なく墨のようになった夢[a23]、(4)如意珠王が高幢の上におられ 珍宝を雨のように降らせて皆に与えてくださっているのに、 四毒もつ龍が口から火を吐いて幢を吹き倒し 如意珠を吸いこんでしまい、 さらに悪風が吹き荒れて 王が深淵に没する夢、(5)五師子が空より現われて 摩訶摩耶の乳房から左脇のあたりを噛んだため、剣で切られたような痛みが 全身を襲う夢です。
こんな夢を見た摩訶摩耶は驚き、こう言いました。 「眠っていたら突然、不吉な夢を見てしまった。おかげで身も心も とても悲しく苦しい[1012b01]。 昔 白浄王宮にいた時に、昼寝をしていたら希有な夢を見たことがあった。 黄金色の身体をした一人の天子が白象王に乗り、天子たちを伴って現われ、 私の右脇に入ったという夢だが、心身ともに安楽でで悩みも痛みもなかった。 そして悉達太子を懐妊した。かれは一族の栄誉となり、世界の照明になった。 しかし今のこの五つの夢は、とても怖くて恐ろしい夢じゃ。 これはきっと我が子、釈迦如来が般涅槃に入られたという悪い知らせに ちがいない」と。 すぐに天子たちに、夢で見たことを話します[b07]。
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