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地獄草紙


 

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Introduction

以下の文書は、

絵巻物シリーズ『国宝 地獄草紙』京都便利堂(年代不明) [Shop]
この商品と同梱の解説書(?)に書かれている「詞書」の書き起こしを、 大雑把訳したものである。 元となった『地獄草紙』は 「安住院本」(東京国立博物館蔵)、および 「原家本」(奈良国立博物館蔵)である。 巻物そのものに書かれている文字は 私には達筆すぎてほとんど読めないため、そちらは あまり参照していない。

[関連] 「餓鬼草紙」大雑把訳はこちら

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大雑把訳(安住院本)

本ページの関連資料として [餓鬼草紙 - e国宝 (東京国立博物館) ] (安住院本)がある。 本ページの大雑把訳を読む際は、 こちらの「e国宝」のページを参照しながら閲覧することを推奨する。

地獄草紙(安住院本)

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詞書一

またこの地獄に別所あり
名を髪火流といふ
ここにいる者ども、むかし人間界にいた頃に 殺生偸盗邪淫をおこない、 さらに五戒を守る人たちに「酒を呑むのはめでたき戒ぞ」といって 酒を呑ませ、戒律を破らせる者どもがこの地獄に堕ちる。 この地獄には熱鉄の犬がいて、罪人の足を喰らう。 また焔の嘴もつ鉄鷲が罪人の頭を突き割って、その中身を啜る。 かような苦患は堪えられるものではなく、叫ぶ声は尽きない。

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詞書二

またこの地獄に別所あり
名を火末虫といふ
ここにいる者ども、むかし人間界にいた頃に 殺生偸盗邪淫をおこない、 さらに酒に水を入れ水増して売った者がこの地獄に堕ちる。 この地獄にいる罪人ども、その身から大量の虫が湧いて その骨肉を突き破って、その身体を喰いちらす。 かような苦患は堪えられるものではなく、叫ぶ声は尽きない。

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詞書三

またこの地獄に別所あり
名を雲火霧処といふ
ここにいる者ども、むかし人間界にいた頃に 殺生偸盗邪淫をおこない、 さらに持戒の人たちに酒を呑ませ、酔わせて戯れ侮り恥をかかせて、 それを喜び自慢する者がこの地獄に堕ちる。 この地獄には厚さ二百肘もの火焔燃えさかり、獄卒が罪人を捕まえては その猛火のうちに投げ込む。罪人は足から頭まで焼き尽くされて 消え失せるが、すぐ蘇る。蘇るとまた焼かれる。これが終わることなし。 叫び声は尽きない。

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詞書四

またこの地獄に別所あり
名を雨炎火石といふ
ここにいる者ども、むかし人間界にいた頃に 殺生偸盗邪淫をおこない、 さらに旅をしている人たちを見つけると、 心惑わせ気を遠くさせる酒を与える。すると 彼らは酔いつぶれてしまう。そのとき隙をみて彼らが持つ 宝物をすべて奪い取る。時には生命まで取ってしまう。 さような者がこの地獄に堕ちる。 この地獄には燃え盛る石が降りそそぎ、罪人どもを焼く。 罪人どもは倒れ伏してしまい、逃げることができない。 そこには熱沸河という河あり。この河にはドロドロに融けた 銅と白錫、そして熱い血が混じりあって流れている。 ずっとこの河の中にいる罪人どもが受ける苦患について、 言葉では言いきれない。 叫び声は尽きない。

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関連資料


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大雑把訳(原家本)

本ページの関連資料として [餓鬼草紙 - e国宝 (東京国立博物館) ] (原家本)がある。 本ページの大雑把訳を読む際は、 こちらの「e国宝」のページを参照しながら閲覧することを推奨する。

地獄草紙(原家本)

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詞書一

また別所あり
名を屎糞所といふ
むかし人間だったとき 愚かにも清浄でないものを清浄と思い、 穢くないものを穢く思い、 仏法に会いながら三宝を敬う心のない者。 さような者がこの地獄に堕ちる。 糞のたまった深い穴にはまった罪人が、首だけ出している。 その糞の臭いこと穢らわしいことは言葉で表現できないほど。 糞の[中には]針口[という名の鉄蟲がいて]罪人を噛み喰らう。 その苦患は堪えられぬ。

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詞書二

また別所あり
名を函量所といふ
むかし人間だったとき 斗升をごまかして庶民を悩まし、商人を悩ますイヤな奴、 さような者がこの別所に生まれる。 ここには鬼がいて、罪人どもに器を持たせ、 燃え上がる鉄の炭火(状のもの)をずっと量らせ続ける。 この苦しみは言葉では表現できない。

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詞書三

また別所あり
名を鉄磑所といふ
むかし人間だったとき ずる賢い心を持って他人のものをかすめ取って その代償も払わず、あるいは 心に憎しみを持ちイヤな奴。 さような者がこの別所に生まれる。 ここには獄卒がいて、罪人を捕まえては鉄臼に入れ、 臼をひく。すると罪人の身体は砕け散る。 その痛み苦しみは言葉では表現できない。

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詞書四

またこの地獄に別所あり
鶏地獄といふ
むかし人間だったとき 心愚か、考え悪くて争いを好み、あるいは 動物どもの殺生をなし、鳥獣を悩ます者。 さような者がここに生まれる。 この地獄では、全身から炎をふきあげる鶏がいて、 罪人どもをしきりに踏む。罪人どもの身体はズタズタになり、 その苦患は堪え忍ぶことあたはず

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詞書五

また別所あり
名を黒雲沙といふ
むかし人間だったとき 憎く悪しき心をもち、他人の家を焼いてしまおうとする者。 さような者がこの地獄に堕ちる。 ここにかかる黒雲から熱砂が降り注ぎ、罪人を焼いて絶えることがない。 その苦しさは止むことなく、我慢できない

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詞書六

また別所あり
名を膿血所といふ
むかし人間だったとき 心愚かにして他人に腹黒く接し、汚物を他人に与えて食わせる者。 さような者がこの地獄に堕ちる。 ここには膿汁に満ち満ちて深まり、それは罪人の口や鼻に届くほどであり、 生臭い。最猛勝という虫がいて、これが罪人どもを喰らう。 骨が見え、筋が破れるその苦しみは言葉では表現できない

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関連資料

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めも

「地獄草紙」の成立年代について。石田2013に以下のようにありましたので紹介します:

詞書の書風の比較研究によって、今日「地獄草紙」の成立は一一八〇年代と推定 され、ほぼ容認されているようである。 (石田瑞麿(2013)『日本人と地獄』講談社学術文庫, p.236. (オリジナルは1998年刊))
推定年代が「12世紀」のような大雑把なものではなく「1180年代」とかなり細かい年代であることに 若干の驚きを感じてしまいました。

 また、ここで紹介した「安住院本」「原家本」では それぞれネタ元にしている経典が違っていて、 安住院本は「正法念処経」、原家本が「起世経」となっています。これについて石田2013は以下:

安住院本が『往生要集』との係わりを思わせるのに対し、『往生要集』が用いようとし なかった、阿含経典中の『起世経』を用いた点は、南都法相系の影響を想像させる。そして こうした影響関係と全く無関係な立場にあるものが、(三)益田家本(甲巻)で、仏名会の所産 として他の二本に先行するかのようである。 (石田2013, p.227)
このように解説しています。‥なるほど。『地獄草紙』には3本の写本が現存しているけど、 中身はそのネタ元も含めて、それぞれ てんでバラバラという感じなんですね。面白い。 それに、本ページでは紹介していない「益田家本(甲巻)」が 「仏名経」ベースというのがちょっと気になりました。まだ見たことないんですけど、 見てみたい‥