以下の文書は、
本ページの関連資料として [餓鬼草紙 - e国宝 (東京国立博物館) ] (安住院本)がある。 本ページの大雑把訳を読む際は、 こちらの「e国宝」のページを参照しながら閲覧することを推奨する。
地獄草紙(安住院本)
[Table of Contents]
またこの地獄に別所あり
名を髪火流といふ
ここにいる者ども、むかし人間界にいた頃に
殺生偸盗邪淫をおこない、
さらに五戒を守る人たちに「酒を呑むのはめでたき戒ぞ」といって
酒を呑ませ、戒律を破らせる者どもがこの地獄に堕ちる。
この地獄には熱鉄の犬がいて、罪人の足を喰らう。
また焔の嘴もつ鉄鷲が罪人の頭を突き割って、その中身を啜る。
かような苦患は堪えられるものではなく、叫ぶ声は尽きない。
またこの地獄に別所あり
名を火末虫といふ
ここにいる者ども、むかし人間界にいた頃に
殺生偸盗邪淫をおこない、
さらに酒に水を入れ水増して売った者がこの地獄に堕ちる。
この地獄にいる罪人ども、その身から大量の虫が湧いて
その骨肉を突き破って、その身体を喰いちらす。
かような苦患は堪えられるものではなく、叫ぶ声は尽きない。
またこの地獄に別所あり
名を雲火霧処といふ
ここにいる者ども、むかし人間界にいた頃に
殺生偸盗邪淫をおこない、
さらに持戒の人たちに酒を呑ませ、酔わせて戯れ侮り恥をかかせて、
それを喜び自慢する者がこの地獄に堕ちる。
この地獄には厚さ二百肘もの火焔燃えさかり、獄卒が罪人を捕まえては
その猛火のうちに投げ込む。罪人は足から頭まで焼き尽くされて
消え失せるが、すぐ蘇る。蘇るとまた焼かれる。これが終わることなし。
叫び声は尽きない。
またこの地獄に別所あり
名を雨炎火石といふ
ここにいる者ども、むかし人間界にいた頃に
殺生偸盗邪淫をおこない、
さらに旅をしている人たちを見つけると、
心惑わせ気を遠くさせる酒を与える。すると
彼らは酔いつぶれてしまう。そのとき隙をみて彼らが持つ
宝物をすべて奪い取る。時には生命まで取ってしまう。
さような者がこの地獄に堕ちる。
この地獄には燃え盛る石が降りそそぎ、罪人どもを焼く。
罪人どもは倒れ伏してしまい、逃げることができない。
そこには熱沸河という河あり。この河にはドロドロに融けた
銅と白錫、そして熱い血が混じりあって流れている。
ずっとこの河の中にいる罪人どもが受ける苦患について、
言葉では言いきれない。
叫び声は尽きない。
本ページの関連資料として [餓鬼草紙 - e国宝 (東京国立博物館) ] (原家本)がある。 本ページの大雑把訳を読む際は、 こちらの「e国宝」のページを参照しながら閲覧することを推奨する。
地獄草紙(原家本)
[Table of Contents]
また別所あり
名を屎糞所といふ
むかし人間だったとき
愚かにも清浄でないものを清浄と思い、
穢くないものを穢く思い、
仏法に会いながら三宝を敬う心のない者。
さような者がこの地獄に堕ちる。
糞のたまった深い穴にはまった罪人が、首だけ出している。
その糞の臭いこと穢らわしいことは言葉で表現できないほど。
糞の[中には]針口[という名の鉄蟲がいて]罪人を噛み喰らう。
その苦患は堪えられぬ。
また別所あり
名を函量所といふ
むかし人間だったとき
斗升をごまかして庶民を悩まし、商人を悩ますイヤな奴、
さような者がこの別所に生まれる。
ここには鬼がいて、罪人どもに器を持たせ、
燃え上がる鉄の炭火(状のもの)をずっと量らせ続ける。
この苦しみは言葉では表現できない。
また別所あり
名を鉄磑所といふ
むかし人間だったとき
ずる賢い心を持って他人のものをかすめ取って
その代償も払わず、あるいは
心に憎しみを持ちイヤな奴。
さような者がこの別所に生まれる。
ここには獄卒がいて、罪人を捕まえては鉄臼に入れ、
臼をひく。すると罪人の身体は砕け散る。
その痛み苦しみは言葉では表現できない。
またこの地獄に別所あり
鶏地獄といふ
むかし人間だったとき
心愚か、考え悪くて争いを好み、あるいは
動物どもの殺生をなし、鳥獣を悩ます者。
さような者がここに生まれる。
この地獄では、全身から炎をふきあげる鶏がいて、
罪人どもをしきりに踏む。罪人どもの身体はズタズタになり、
その苦患は堪え忍ぶことあたはず
また別所あり
名を黒雲沙といふ
むかし人間だったとき
憎く悪しき心をもち、他人の家を焼いてしまおうとする者。
さような者がこの地獄に堕ちる。
ここにかかる黒雲から熱砂が降り注ぎ、罪人を焼いて絶えることがない。
その苦しさは止むことなく、我慢できない
また別所あり
名を膿血所といふ
むかし人間だったとき
心愚かにして他人に腹黒く接し、汚物を他人に与えて食わせる者。
さような者がこの地獄に堕ちる。
ここには膿汁に満ち満ちて深まり、それは罪人の口や鼻に届くほどであり、
生臭い。最猛勝という虫がいて、これが罪人どもを喰らう。
骨が見え、筋が破れるその苦しみは言葉では表現できない
日本人と地獄 [ 石田瑞麿 ] |
「地獄草紙」の成立年代について。石田2013に以下のようにありましたので紹介します:
また、ここで紹介した「安住院本」「原家本」では それぞれネタ元にしている経典が違っていて、 安住院本は「正法念処経」、原家本が「起世経」となっています。これについて石田2013は以下: