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Cryptogram in Classical India // 古典インドにおける暗号


[前] INDOLOGY-ML in 2000/12

めも

イスラムとムレーッチャ

vedabase.netというサイトの 語彙衆の desa の項を見てたら、 こんな風にあるのを見つけました:

mleccha-deśa — the countries governed by Muslims; CC Madhya 4.184
mleccha-deśa — this is a country occupied by the Muslims; CC Madhya 18.217
2箇所書かれていて、そのどちらも "mleccha" を Muslims、つまり イスラムと結びつけて説明しています。うーむ。

 ‥‥いや、無論、イスラム教は7世紀発祥ですし、 カーマスートラなど一般的なインド古典文献は7世紀より前に作成されたものが主流ですから、 インド古典に登場してくる "mleccha" という語が、イスラムを指す言葉である訳ないのは確かですけど。

 では、上記サイトは何を根拠にイスラムと言ってるかといえば。 [ Bhaktivedanta VedaBase: Śrī Caitanya Caritāmṛta ] とあり、 どうやら、チャイタニヤ(15〜16世紀)の作品が イスラム説の根拠になっているようです。

 チャイタニヤ(チョイトンノ)といえば。私が過去に作った [ ハレ=クリシュナ教会にみるグル ] というページによれば 「イスラム教徒の支配下に あったベンガル州ナヴァドヴィーパ(Navadvīpa)に生れたチャイタニヤ (Caitanya 本名 Viśvaṃbhara Miśra 一四八五−一五三三年) 」と書かれていますし、 チャイタニヤは かなりイスラムとの接触はあったみたいですから、 ちゃんと調べたわけではないですけど、チャイタニヤ自身が イスラムについて何か言及したりとか、 イスラムを "mleccha" と呼んだりする可能性は あって当然な感じです。‥けど、 イスラムを "mleccha" と呼んでしまっていいのか、というのは 微妙ですね。なんか「異文化理解」という観点からすると、 もう最初から終わってる感じなんですけど‥。いや、無論、 現代に生きる我々の価値観をふりかざしてチャイタニヤ様を どうこう言う気は全然ないですけど、ちょっと違和感は残りますよね。 (2013)

チベットに伝わるムレーッチャ

チベット人のターラナータ(17c)という人[Wikipedia] が書いた仏教史の本があるんですけど。

 そのドイツ語訳(Schiefner, A.(1869) "Tāranātha's Geschichte des Buddhismus", St. Petersburg) の中に "Mletschha-Lehre" (大雑把訳: ムレーッチャのおしえ)(p.80) と あるのを見つけたので、一応メモっておきます。龍樹菩薩の章(15章)の、最後のあたりです。 コピー整理してたら、たまたま目に飛び込んできました^^;

(Tibetan Letters)
Derselbe brachte auch Zaubersprüche in Ausführung und wurde sammt einer Schaar von 1000 Mann Mletschtschha-Ṛischi, welche Paikhampa genannt werden. ‥(略)‥ Dieser Lehrer wurde bekannt unter dem Namen Ardho und dies war der erste Anfang der Mletschtschha-Lehre. (ドイツ語訳; p.80)
Along with a thousand attendants, he became the sage of the mleccha-s under the name Bai-kham-pa. ‥(略)‥ This teacher came to be known as Ardho. Thus originated the religion of the mleccha-s. (英訳; pp.118--119)
彼は眷属一千人と倶にパイカムバ(Paikamba)と名けらる土耳守迦(Turuṣka)の仙人となれり。 ‥(略)‥ 彼の教師はアルボ(Arbho)と称せられたり。初めて土耳守迦教(回々教)の発生せし状態は 是の如し。(寺本訳1928; p.131)

 とりあえず、サンスクリットの "mleccha" の チベット語訳は "kla klo" です。 この語について辞書を引いてみます(Chandra Das):

kla klo (Skt: mleccha, turuṣka, tībara, anāryya)
1. a barbarian: "kyi hud kla klo dud ḥgro klu (Zam. 2) // Alas, the Mleccha, the beasts, and the Nāga!"
2. any Musalman of India, a Hwi-hwi or Hwi-tse in China.
3. a nation without laws; a barbarous, uncivilized race.
この1つめの意味は、従来よく知られた意味「蛮人」ですし、3番目は「蛮地」ですから これらについては問題ないですけど。‥ 2番目の "Musalman of India" って何だ?! (^o^; 「ムスリム」のことなんでしょうか。 某辞書サイト(?)見ると、この語を ムスリムとする訳語もあるみたいですから‥。 寺本訳はここを「土耳守迦教(回々教)」と訳していて、たぶんイスラムと解釈したんですよね。 それでいいのかな? Chandra Das は 2. について "a Hwi-hwi or Hwi-tse in China" と 書いてますけど、この Hwi が「回」のことなら「中国における回回、あるいは回教のこと」と 解釈できそうですよね(ちなみに現代中国語では「回」が"huí"、 「教」が"jiāo"になるみたいですから、うーん‥。間違ってるかも)。 ‥このへん、正直よくわからないですので、とりあえずメモだけしておきます。