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中国古典にみる外道ども

中国古典にみる「外道」の用例です。といいながらインドとの区別は曖昧‥


[前] 『破魔変文』(9c?)に見る魔王外道

蒲松齢『聊斎志異』(17c)に見る道士とその敵対者

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はじめに

直接「外道」と関係してないんですけど。  蒲松齢『聊斎志異』(17c)を読んでいたら、「道士」が出てくる話があったので、 ちょっとここで紹介しておきます。

 外道と道士に何の関係があるのか、外道って仏教の話だろ? ‥と思いそうになりますが、 しかし「外道」というのは現代日本でもよく「道を外れた人」、 つまり「道」と呼ばれる何かが想定されていて、それと異なる、別の方向に進む人が「外道」である。 ‥と、そういう理解をされていることがある以上、 字面だけかもしれませんが「道」と密接に関係している「道士」なる存在は無視できません。 ‥と、いうことで。

 なお本ページでは以下の翻訳:

  • 立間祥介 編訳(2010)『蒲松齢作 聊斎志異』(ワイド版岩波文庫) 2 vols.
この本を参照しています。原文は、将来的に、入手できれば参照することもあるかも しれませんが‥ (でも大昔の漢文を読むみたいにして読めるのか、というのは正直よくわかりません‥)

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「画皮(1-40)」::道士は対決する

ある道士が、悪鬼に取り憑かれて落命目前の王という男を見つけて声をかけます。 そのときはその自覚がなかった王でしたが、最近のめりこんでいる女が 「青緑色の顔に鋸のように尖った歯という一匹の恐ろしげな鬼が、寝台の上に 人の皮をひろげ、絵筆をとって色を塗っているところ」(p.134)を目撃してしまいます。 その皮を身にまとって、若い女になりすましていたんですね。びっくり仰天した王は、 あわててその道士に助けを求めます。しかし道士は

「祓ってくれといわれても、向こうだって長いあいだ苦労して、やっと身代わりを見つけたのだ。 命まで取ってしまうのもかわいそうだ」(立間編訳2010,p.上135)
と言って本格的な祓いはしてくれず、そのかわり 払子を一つ、手渡してくれました。簡単な結界みたいな感じ? ‥いやたぶん、 悪鬼に対する警告の印なんでしょうね。「これ以上手出しすると、俺が黙ってないぞ。‥と 考えてる道士がいるぞ」と。 しかしこの払子は、結果からいうと逆効果になるのです。
女がやってきたが、払子に気がつくとその場に足を止め、いつまでもばりばりと歯を 噛みならしていた。やがて立ち去ったが、しばらくしてまたやってくると、
「道士め、わしを脅かすつもりだろうが、そうはいくものか。いったん口にいれた物を おめおめ吐き出すと思ってか」
 と言うと、払子を取ってこなごなにし、寝室の戸を打ち壊して入ってくるなり、王が寝ている 寝台に登って王の腹をべりべりと引き裂き、心臓を掴み出して立ち去った。(立間編訳2010,p.上135)
‥なんて無力な払子(^_^;

 これを知った道士は激怒します。当然ですよね。悪鬼に情けをかけたばっかりに、 とんでもない結果になった訳ですから。道士は、その悪鬼は今度は老婆の姿をして 潜伏していることをすぐ突き止めます。そして道士は

木剣をついて庭の真ん中に仁王立ちになり、
「化け物め、わしの払子を返せ」
 と言った。
 老婆は家の中にいたが、真っ青になって外に飛び出した。道士が追いすがって 木剣で一撃すると、老婆はばたりと倒れた。その瞬間、人の皮がぱっと剥がれて悪鬼の姿に変じ、 地面を転げまわりながら豚のような声で吠えたてた。道士が木剣でその首を斬り落とすと、 もうもうたる煙となって地面に山形に渦を巻いた。道士が瓢を取り出して栓を抜き、その煙の 中におくと、ひゅうひゅうと音立てて吸いこんだ。あっという間に吸いこんでしまうと、 道士は栓をして袋に入れた。(立間編訳2010,p.上137)
呪術合戦めいたものを想像してましたけど、剣を振り回しての大立ち回りの結果、 悪鬼の首を斬り落としたところ、もうもうたる煙になった‥。人っぽい姿形をしているが、 実のところは「鬼」、つまり死者であり「魂」だから 実体は雲のようなモクモクした感じであり、 首を斬られてしまったために本来の姿に戻ってしまった、それを道士に吸い取られてしまった。 ‥そんな感じでしょうか。 (この「画皮」については 「漢字の「鬼」」[URL] もどうぞ。)

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「醜狐(8-28)」::道士vs狐仙

別の道士ですけど。今度は狐仙、つまり仙人のような格になった狐というイメージなんでしょうか。 その狐仙が女の姿をして男の前に現れます。 狐仙女と男は非常に仲良くやっていたんですけど。しかしやがて‥

穆は女を疎ましく思うようになり、道士を呼んで、門口に貼る護符を書いてもらった。 やってきた女は、護符を破いて噛み砕き、ぺっと吐き捨てると‥(略)‥憤然と立ち去った。
 穆が震えあがって道士に相談すると、道士は祭壇を造りはじめたが、すっかり出来上がらないうちに、 壇上からころげ落ちた。頬一面に血を流しているので、見れば片方の耳が削ぎ落とされていた。 みなは仰天して逃げ散り、道士は耳を抑えてこそこそと逃げ去った。(立間編訳2010,p.下252)
こちらの道士は剣を振り回さないんですね。あるいは、祭壇作りというのは剣を振り回す前段階、 準備段階という感じなのでしょうか。どっちにせよ、祭壇の準備中に 道士は襲撃され、 手ひどくやられて早期撤退してしまいます(そしてそれきり出番は終了)。 この後、男は狐仙には絶対服従するしかなくなってしまい、 結局は無一文になってしまうのですけど。この道士は つまり「何とかしてくれ」とお願いされたので 何とかしようとしたが、自分には荷が重いと判断したので早々に撤退した‥という感じですよね。 いかにも「雇われた専門業者」的な感じです。 (この道士と似た感じの「祈祷師」が 7-29甄后(立間編訳2010,p.下198)、 8-24盗戸(立間編訳2010,p.下248) にも登場してます。 「道士」と「祈祷師」の区別がどうなっているのかはよくわかりません。けど 「雇われた専門業者」的な感じは非常によく似てるなー、とは思います。)

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外道ではないが‥

 この悪鬼、とくに仏教と敵対するような思想がある訳ではなく、単に 王という男に怒り、 怒りのあまり殺してしまった、そんな展開になっています。これは仏教内部で言うところの 「外道」とは全然違いますよね。思想がないし、仏教とも敵対していません。 後者の狐仙についても同様です。

 しかしこの悪鬼は 道士にさえ遭遇しなかったら王さんを殺す気満々だった訳ですから、 「人に災厄を加える存在」であることは間違いありません。んで、そういった「人びとに 災厄を与える魑魅魍魎は、呪力をもつ道士のみが撃退できる」というのが ある種 当時の常識だったのではないでしょうか。そして他方では仏教方面からもたらされた 「外道」という語。これは「道から外れる人」と読めますから、 すなわち「道士とは相容れない者」と理解できそうです。というか、それ以外の意味では いまいちピンと来なかったりしませんかね。代表的な「外道」とされている 「六師外道」なんて、中国の人たち、見たことなかったでしょうし。 そしてこれら 「道士は外道と対立する」「道士は呪術を持ち、魑魅魍魎を撃退できる」、この2つが 混じってしまうとしたら どうなるでしょう。そうすると 「外道は、呪術により撃退される」→「外道は、人間というより、あの世のもの」という感じに 解釈される余地も出てくるのかなー、と。このへんは私の妄想ですけど。

 なお。この『聊斎志異』には、幽鬼や狐が人の姿を取って‥という話が かなり頻繁に出て きます。ここでちょっと注意すべきかもしれない点は、本作に出てくる幽鬼や狐 (これがほとんど若い美女ばっかり)は、人に何の禍ももたらさない点です。 というか大抵の場合、人を裕福にしたり、 甲斐甲斐しく働いたりと、何というか「理想の妻」「理想の嫁」みたいな位置付けの人が ほとんどです。つまり日本における「狐」と比較すると、ずいぶん違うなあ‥と。 日本では「狐」は「犬神」とか「外道」とかと同じ扱いになっていて、 良くないものとして差別・侮蔑・排除の対象になるのに対し、17世紀頃の中国では 決してそういう訳ではないということなんでしょうか。 (ただ、相手の正体が幽鬼と知った人は 大抵、最初にビビって、のち慣れてきて、 その後メロメロになる‥というパターンが一般的ですから、この「最初にビビ」るあたり、 幽鬼は 本来的には差別・排除の対処であるはずだが‥という感じなのかもしれません。 そのへんのことはまだ不明です。)

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[余談] 道を踏み外す?

ところで。『聊斎志異』の岩波文庫版の和訳を見ていたところ、こんな文を見つけてしまいました:

ついに臣下たるの道を踏み外した。 (10-12席方平) (立間編訳2010,p.下298)
本ページ的には、なんか「おおっ?!」と言いたくなるような事例ですよね。

この原文は何か? というのが気になって気になって仕方ないですので、調べてみました。 どうやら、こんな感じみたいです:

竟玷人臣之節 (大雑把訳: ついに人臣の節に傷をつけてしまった)
‥なるほど。事例一つでこんなこと推測しまうのはマズい感じはしますけど。 なんか中国では「悪事をはたらく」という意味で「外道」を使うことは なさそうな気が、なんか、してしまいます。そのへん、どうなんでしょうか。

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