[前] 冥途って、どこ? |
仏像 閻魔大王 座像 3.5寸 桧木彩色 |
冥途はどこにあるのか? ‥これを考えるためのヒントは、実は『地蔵十王経』の中にも、あります。 それは「閻魔王」の存在です。
閻魔王以外の王たちについては正直「この王って、いったい誰なの?」的な感じの方々 ばかりな訳ですけど。そんな中、5:閻魔王だけは仏教でもチョー有名な御存在である訳でして。 つまり。仏典において、閻魔王がどこにいることになってるか。これがわかれば、 その閻魔王宮が出てくる 『地蔵十王経』の舞台がどこか、何となくわかってくるのでは? ということです。
[Table of Contents]しかし。どこをどう調べ始めたらよいか、よくわかりません。そこで。困ったときはこれ、という 感じで望月仏教大辞典から紹介してみたいと思います。「閻魔王」の項、かなり長いんですけど。 この中から、閻魔王の住処に関する記述をここで紹介させてください。これもかなり長いです:
‥んー。思ったほど簡単ではないですね。地獄変相などでは 閻魔王は地獄世界におられるように描かれてるのが一般的なので、 地獄におられる感じの設定になってるんだろうと勝手に思ってましたけど。 案外そうでもないみたいですね。
「長阿含経」などによれば、
最初は南方にある山の中(の地下?)におられるという感じであった、と。
それが死者(鬼)たちの王、という理解が主流になってきたからか
「大毘婆沙論」「正法念処経」「倶舎論」などではかなり深い地下空間に移動していき、
「旧華厳経」「金光明最勝王経」「大般若波羅蜜多経」などでは地獄餓鬼畜生界などと
列挙されるどこかの場所‥つまり地獄とも餓鬼界とも「この世界」とも違うどこかになり、
「瑜伽師地論(第三十七)」では祖父世界(=餓鬼界)=琰魔世界となり、
「立世阿毘曇論」「瑜伽師地論(第二)」でようやく「地獄界」なるものに定住したらしい、と
(異世界なのか、超大深度地下空間なのか、どっちなのかは不明)。
そんな感じでしょうか。転勤の多いサラリーマンみたいです(^_^;
ただし餓鬼界と地獄界の関係は一般的には微妙 [詳細はこちら :: 餓鬼と地獄の混同] で、 両者を同じと考えることも別物とすることもありますので、 調べれば調べるほど訳わからなくなるような気がしないこともありません。
仏教以外の展開を見てみても、 もとはインドのヴェーダ時代のヤマ神がスタートで、その頃は天上界に住んでいたものが、 マハーバーラタの頃は南方地下世界(これは「長阿含経」と同じ)に住処を替えていた‥などの ことが書かれています。 (そしてその観念は、現代ヒンドゥー教と同じなんですね‥) ‥んー。実にバラバラだ‥。
[Table of Contents]日本における「地獄」のネタ元として有名な「往生要集」(10c末)(大正2682)。ここでの閻魔王に関する記述を見てみます。
これは『正法念処経』から持ってきた部分みたいです。
大焦熱地獄の記述で閻魔王がいきなり出てきて「はあ?」という感じですけど、
さらに不思議なのは、閻魔王は大焦熱地獄に赴く途中の「彼處」にて罪人を呵責し、
その後さらに地獄へと堕ちていくとなってます。「彼處」って一体どこ?
大焦熱地獄に行く人しか閻魔王とは会えないの??
閻魔王は判決するんじゃなくて呵責するだけ??? ‥んー。
よくわかりません (^_^;
他の場所を見てみると、こんな記述が:
なるほど。「地下500由旬にある閻魔王世界」と書いてありますね。 いろいろある地獄のうち、いちばん浅い場所にあるはずの「等活地獄」が地下1000由旬と書いてありますから、 地獄よりも浅い場所(ちなみに上で紹介した大焦熱地獄は地下「十億由旬」。どんだけー!) に、 地獄とは別の「閻魔王世界」があるということになるのかな??
たしかに別の箇所を見ると
このようにも書いてあって、つまり閻魔王界は地獄・餓鬼・畜生世界(=三悪趣)と列挙される、 つまりその3つとは別物、とされてますね。 これは [ 上で紹介した、いろんな仏典における記述 ] のうち 「大宝積経第七十五六界差別品」 「新華厳経第十華蔵世界品」 「瑜伽師地論第三十七」などの記述と同じ感じの理解になりそうです。
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