[かんのんさま::メモ]

かんのんさまは南に西に

[梵文法華経/24:かんのんさまの章] に関する「めも」です。

[前] 補陀洛はインド南方の海上にあり

「かんのんさま」に向けて南へ

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「ふだらく」は到達可能?!

「かんのんさま」が住まわれる地「ふだらく」とは一体どこにあるのか。 華厳経によれば、それは南方。しかも善財童子が自力で行ける程度の場所、だそうです。

 実際、解脱上人貞慶は『値遇観音講式』(1209)の中で、 補陀洛の場所について以下のように述べています(大雑把訳):

南インドに近い秣羅矩吒という国の南浜海にある秣剌耶山、 その東に補陀洛迦山あり。我国からすると西南の方向か。 煙波のはるか彼方ではあるが、帆に風を受けての通行可能。([値遇観音講式; 070]-39)
この「南インドの秣剌耶(malaya)山の東に‥」という説は、 他ページで紹介した玄奘『大唐西域記』(646)の説と同じですね。念のため再掲:
秣剌耶山東有布呾洛迦山。 // [大雑把訳] 秣剌耶(まらや)山の東に、布呾洛迦(ふたらか)山あり [大正2087; p.51:932a14]
玄奘の説をそのまま受け入れた、といった感じなんでしょうか。

 でもそれよりも何よりも。ここでどうしても目が行ってしまうのは 「帆に風を受けての通行可能」のところ。‥‥行けるんじゃん! ということで、 「かんのんさまの聖地」こと補陀洛を目指して船出する人たちがいました。 これを「補陀落渡海」[Wikipedia]と呼びます。

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「渡海」には2種類ある?

 でも、補陀落渡海に関する情報をいろいろ見てみると、どうやら 渡海のパターンには2種類あるような感じです。つまり以下です。

  • 海の向こうにある「補陀落」をそれなりに目指しての渡海
  • 第三者的には「入水自殺」としか見えない渡海 (葬儀的な渡海もこっち)
そして、何故そうなのかは不明ですが。じつは「補陀落渡海」において主流なのは 後者、つまり渡海をしない「渡海」らしいのです。 (井上靖(1961)「補陀落渡海記」で描かれてるのも、こちらですよね。 1565(永禄8)年、となってます。)  えええ??? ‥とは思いますが、 まずはこのそれぞれを順に見ていきましょう。

(本ページでは、 根井浄(2008)『観音浄土に船出した人びと 熊野と補陀落渡海』吉川弘文館. にかなり 依存しています。引用に書名がないときはこの根井2008からの参照と考えてください。)

[次] 補陀洛に向って‥(1)