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餓鬼について

[佛説救抜焔口餓鬼陀羅尼經]に 端を発して作成している「めも」です。


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餓鬼地獄という場所

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21世紀的地獄絵図(台湾(中国),21C)

ちなみに、インドではなく中国の話になるのですが。

 中国(台湾)で作成された地獄変相図を見ると、その中に「餓鬼地獄」と呼ぶしかなさそうな 部分があることに気付きます。中国語のサイトでたまたま見つけた 「因果図鑑」[Link]とか 「因果図鑑---地獄変相図(2)」 [Link]というページ。このページを見てみると、 十王の 第二殿・楚江王(2:初江王)の管轄下に 剣葉地獄、糞尿地獄などとともに「餓鬼地獄」なるものが描かれています。

 日本の地獄絵では、2:初江王の元には賽河原があったりします [see: 賽河原と地獄絵]が、 この絵には賽河原はないです。それと2:初江王管轄下の諸地獄の中では唯一ここだけ、 観音さまのお姿が描かれてますね。観音さまが、まるで金魚にエサを与えるのと同じような 感じで、なにか食物を施してくださってます。日本では「地獄に仏」といえばお地蔵さまに 決まってますから、なんかちょっと違和感がないこともないですね(絵図の解説によれば 「大慈大悲観世音か地蔵王菩薩」と書かれてますから、両者の当番制になってるんでしょうか)。 でもそれよりも気になってしまうのは、ここは2:初江王の管轄ということで、 日本的感覚であれば 2:初江王の本地(正体)であるはずの釈迦牟尼仏は何もしてくれないの?? ということなんですけど。まあ十王と十仏(十三仏)の対応付けは日本独自のもののはずですから、 そのへんは仕方ないか‥。閑話休題。

 餓鬼地獄なるものが存在するという話になりますと、 餓鬼は餓鬼界の住人なのか地獄界の住人なのか、どっち? ということも無論 気になるところですけど。本ページ的には、やっぱ、その姿が気になりますね。 列挙されてる他の地獄は、原形をとどめないほどグチャグチャにされてる人もいますが、それでも皆 普通に人間として描かれているのに対し、やはり餓鬼だけ よく見るあの怪物ぽい描写になっています。 しかし「餓鬼地獄」か‥。餓鬼って、本当に地獄よりマシなんですかね? (苦笑) (あるいは「餓鬼はちょっとマシだよ」と示すために餓鬼地獄だけには 観音さまを描いたとか?)

 ところでこの中国の地獄変相、同じ内容のものがあちこちで紹介されているのが 気になったので調査してみたところ。かなり最近の作品みたいですね。 江逸子という台湾在住の画家の方が2002〜2003年に作成した絵画で、 図に添えられた説明文も2004年に江さんが書いたようです [ 江逸子 | 臻印藝術 ] 。 むちゃくちゃ最近じゃん‥。それと2004年春に京都で展覧会もやったみたいですね。がーん。 展覧会終了の10年後にそれ知ってもなあ‥ (-_-) それと2005年には『因果図鑑』という題で出版もされてるんですね。 値段次第ですけど、ちょっと欲しいかも‥

 ちなみに、この地獄変相の元ネタとおぼしいのが《玉歴宝鈔》という文献らしいです。 ( [関連] [付] 玉歴宝鈔(宋代,11c?) )

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碁に熱中しすぎて餓鬼地獄(清(中国),17C)

ちなみに、この中国の「餓鬼地獄」なるものは 蒲松齢『聊斎志異』(17c;清初)(和訳)にも出てきています。 どんな感じかといえば‥

「碁に夢中になったあげく家産を蕩尽してしまったのです。困った父親が書斎に押し込めたのですが、 塀を乗り越えて抜け出し、人気のないところで仲間と盤を囲む始末。父親はこれを知ってはげしく 叱ったのですが、ついに止めさせることができず、恨みをのんで死にました。閻魔王が親不孝の咎で あの男の寿命を縮め、餓鬼地獄に落としてすでに七年になります。‥(略)‥ もう二度と生まれ変わることはできますまい」(4-25碁鬼) (立間祥介 編訳(2010)『蒲松齢作 聊斎志異』(ワイド版岩波文庫), pp.下455-下456.)
碁に夢中になりすぎて家産を蕩尽した親不孝者が餓鬼地獄に堕ちてます。碁って、そんなもんだっけ? とも思いますけど、賭けかなんかしてしまったんですかね。 それと今回の場合、「ケチ」は一切言及されてない点も大事かもしれません。じつは餓鬼世界と 餓鬼地獄は別モノだったりするんですかね。 それとあと個人的に見過ごせないのは「もう二度と生まれ変わることはできますまい」という言葉。 つまり、この世から あの世へは行くけど、そこが行き止まりになってる。‥そんな感じですよね。 これってやっぱ中国でも輪廻的世界観は馴染んでなかったということなんですかね。

 まあ、当初はまったく別なところで別なイメージで語られていたものをムリムリと 一つにまとめて「五道」あるいは「六道」として体系化したもんなんだろうと 考えれば、そんなもんか、という気もしないこともないですけどね。

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行きつくはては餓鬼地獄(日本,20C)

「餓鬼地獄」という表現、いちおう日本にもあったみたいです。というか、 たまたま見つけたのでメモっておきます。

 萩原朔太郎、辞世の句 (1942年、満55歳で肺炎にて没):

行列の行きつくはては餓鬼地獄
‥この「餓鬼地獄」は「餓鬼・地獄」なのか、あるいは地獄の中なる「餓鬼地獄」なのか。 そのへんは定かではありません。「タダでなにかもらえる行列に並んでる人を見て‥」という 具体的な何かがあれば「ああケチか、だったら餓鬼の地獄か」という解釈も可能なんですけど。 行列がもっと抽象的なイメージで捉えられた場合だとちょっと解釈は難しくなりますよね。

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