[かんのんさま::メモ]

かんのんさまは南に西に

[梵文法華経/24:かんのんさまの章] に関する「めも」です。

[前] 観音さま概説(3)民衆

日本に仏教が流入してきた頃

前ページの「まとめ」で書いたこの部分:

薬師仏のような例外を除くと、どの仏菩薩も 基本的に同じ扱いなので、日本でも根強い「先祖崇拝」の枠組み、 在来の神様に対する呪術的期待をそのまま海外先進国から 導入した「最新の神様」に当てはめた感じなのだろう。 (仏像という、端正な人形のご神体にきっと人々は強い衝撃を受けたはず。) 白鳳末期(8世紀初)から奈良時代になって ようやく経典に関心が向いてきて、観音様に現世利益的な効験も期待されるように。
この部分の「呪術的期待」に関して、ちょっとした補足ということで。山折1983によると‥

仏教がわが国にもたらした「仏」は、当初「蕃神」と称されたが、このとき仏が神の一種と 考えられていたことにとくに注意しよう。‥(略)‥ こうして疫病の流行、自然災害、社会の異常現象などを、そのような祟り霊によって ひきおこされたものであるとする信仰や観念が強固なものとなっていったのである。
 こうした状況を背景にして、新たな社会的要請を受けて活躍をはじめたのが平安時代の仏教 僧たちであった。彼らは祟る神や神霊を鎮めるための加持僧、祈禱僧として宮廷に迎えられ、 貴族たちの期待にこたえようとしたのである。その代表選手が空海、最澄であり、その傘下の 修行僧であった。彼らは時に応じあるいは事件に際会して、国家の鎮護を祈るとともに天 皇の生命を加持した。また貴族社会の秩序を守るために、外部からおそいかかる怨霊や祟り霊 を鎮める対抗儀礼を行ったのである。
 とりわけ、その対抗儀礼に大きな影響力を発揮したのが密教であった。しかも、この加持祈 禱にもとづく密教的な技術と装置の体系は、大陸的な知識と創意によって洗練されており、当 時の人々の目を奪うのに十分の魔術的な力をもっていた。まさに神と仏の対決のドラマが、諸 僧を集める道場と絢爛豪華な道具立てのなかで、盛大に挙行されるようになったのである。 ‥(略)‥ 神霊や物の怪を前面に 押し出す怨恨共同体と、邪霊や怨霊の駆除を使命とする鎮魂共同体という二元的な構図が、そ こからは浮かびあがってはこないだろうか。神=共同体と仏=共同体との葛藤と対決の時代、 あるいは新たな次元における神と仏の相互媒介、相互補完の幕開けの時代、といってもいいか もしれない。 (山折哲雄(1983)『神と仏』講談社現代新書, pp.125--129)
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まず「蕃神(ばんしん)」とは「外国人の信じている神。また、外国から渡来した神」と 辞書(Macintosh 付属の「国語辞典」(大辞泉?))にあります。「外の神」ですね。

 ここで面白いのは、日本に仏教が流入しはじめた当初、 仏教が人々に期待されていたもの。それは「祟り神の鎮護」 「国家の鎮護」「天皇の生命加持」などであったということです。当時の圧倒的な先進国・ 中国で流行の、当時最新鋭の呪術体系、それを日本に持ち込むことによって 日本国や天皇、貴族たちをお守りする。今風に言えば「スピリチュアルな自衛隊」 という位置付けですよね。この「スピ自衛隊」の装備を強くするため、 そのため当時の日本の支配者たちは 多大の支出と危険をかけてまで 中国に使者を送り続けた、と。 そして仏法のなかでもとくに人々の心を惹き付けたのが密教。 理由は簡単で「なんか、魔術的に いちばん効きそう」だから。

 そしてその「密教が、なんか、よくね?」という人々の気持ちが、日本における観音像の 作り方にも影響を与えてきます。観音菩薩は観音菩薩であってそれ以外ではないはずなのに、 「密教的変化観音」という、何というか「変わり種」的な姿をした観音像に 人気が集まるのです。十一面観音とか、千手観音とか‥。これもやはり普通の観音像よりも 霊験あらたかな感じに見えたんでしょうね。おかげで従来の、普通の観音像が 「聖観音(正観音)」と呼ばれて、それら変化観音の一種であるかのような位置付けに されてしまうほど(いわゆる「六観音」と呼ばれるやつ)。 変化観音像は それほど人気を得てしまうんですよね。

 このように盛り上がった観音信仰ですけど。しかし「民衆への広がり」という点では、 10世紀末ころから爆発的に(?)広がった地蔵信仰には勝てませんでした。お地蔵様は死後の世界、とくに地獄に強い(?)と いうことで、多くの人々のハートをガッチリ捕まえてしまいましたから‥ (ちなみに「六地蔵」というのは、上記「六観音」を元ネタにしているっぽいです。 ただ「六観音」ほど、各地蔵のキャラは立っていませんよね。所詮パクりということか‥)。

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