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[チラシの裏]

人間魚雷出撃す (1956)




1945(昭和20)年7月5日、つまり敗戦の40日ほど前の、 瀬戸内海から話は始まります。 そこで「人間魚雷」回天の搭乗訓練を行う4人の若者、 垣田中尉(葉山)、 黒崎中尉(慶応大生)(石原)、 今西一飛曹(19歳)(長門)、 久波(くば)上飛曹(杉)、の4名。 この中では今西が上々の成績で、他の人たち、とくに黒崎が イマイチという感じです。過去3回、艦の不調ゆえに 出撃できなかった過去をもつ黒崎は、 訓練の不首尾を参謀になじられますが、しかし 「出撃搭乗員の気持ちなんて、行きもしないで御託並べてる彼らに わかりゃしねえよ」なんて感じで、 士気がかなり落ちてしまってます。

 そして訓練後、出撃前の休暇。 黒崎中尉を除く三人は里帰りします。 今西ノボルは、家族や病弱な弟ススム(津川)に会ったりして。 久波は幼馴染の女子と、 垣田は想いを寄せる女性に会ったりして。 それに対し、過去三回の「死にぞこない」をしている黒崎は 里帰りしません。けど、かわりに妹(芦川)が訪ねてきて、 黒川に意外な報告をします。両親が空襲で亡くなったため、 兄を頼ってきたというのです。‥んー。

 そして7月18日。ついに出航の日です。イ58に乗り込む4人。 出航して間もなく、イ58は潜航します。‥え? もう?? と思ったら、 どうやら米軍の航空編隊から隠れるための潜航のようです。 船舶との遭遇ではないと知って安堵する乗組員たちと、 ちょっと複雑な表情の4人の対比がちょっと微妙です。

 27日。 グアム・レイテ線の、敵補給路の真っ只中に到着したイ58の中では、 あらかじめの「最後の晩餐」が行われます。 そして敵船に遭遇! 改めて緊張する4名! しかし病院船と判断され、 スルーすることに。大きく息を吐き出す黒崎。‥これはツラいな。 心が持たないよ、これ‥。

 そして開始37分。ついに敵大型タンカーおよび 駆逐艦に対し、回天の出撃用意命令が! そしてついに開始40分、 久波の乗った回天2号艇と、垣田の乗った3号艇が発進します。 作戦は見事に成功し、敵2艦が轟沈したみたいです。 ‥この出撃、じつは黒崎が乗った1号艇が最初に出る予定だったん ですけど、1号艇がまた電気系のトラブルで発射できず。 また黒崎中尉は死に損なってしまった格好です。 それと19歳で最年少の今西一飛曹。こちらは黒崎とは違って、 とにかく早く出撃したくてたまらないみたいですけど、 こちらも精神的なストレスは相当のものがあるみたいです。

 29日。敵艦に遭遇。黒崎の1号艇は故障のため、今西の4号艇だけが 発射スタンバイします。しかし出撃命令は出ず。魚雷攻撃で 敵を攻撃することになります。‥また決意がムダになった今西と、 一人だけ艦内で何もすることがなくなり 完全に艦の居候状態になってしまってる黒崎。 じつに、行くも地獄 生き残るも地獄な状態ですね、これ。

 そして開始63分。ついにイ58は敵艦隊を捕捉。 いよいよ決戦の時を迎えます。精神的にかなりヤバい感じになっている 今西ですけど。‥なんと、今西の4号艇も電気系の故障が発覚! がーん。 これで、艦内で何もすることがない 居候が2人になります。発射可能な人間魚雷がなくなり、 魚雷攻撃で敵艦隊を攻撃するイ58ですけど。 敵の反撃、爆雷攻撃を受けます。 そんな中、黒崎ら2人は 敵反撃への反撃のための 手動による イチかバチかの特攻を思い付き、 艦長に出撃許可を願い出るのですが‥。

つぶやき

あの敗戦からまだ10年しか経過してない時期の作品ということで、 戦時中のことが たぶんまだ過去になりきってないというか、おそらく、上官とか 兵士たちの様子については かなりリアルな感じになってるんじゃないかと 思います。

 イ58ということで、調べてみたらたぶん 多聞隊・インディアナポリス撃沈のあたりがモデルになってるんですね。 ‥しかし、そうか。本作における今西(長門)のモデルになったとおぼしき 白木一飛曹は 助かったんですね。

 ただ、出撃する4人の搭乗員たちの内面描写については、 そんなにハッキリ描いてないのが不思議といえば不思議な感じです。 描写が、なんかじつに坦々としているというか何というか。 やっぱこれって、『自転車泥棒』(1948)などの イタリア・ネオリアリズム的描写の影響だったりするんでしょうか。

 ちなみに「十死零生」の特攻作戦においては 特攻する人たちの士気はどうしても上がらなかったんじゃないかと 思うんですけど。そのへんの、特攻要員のモヤモヤした気持ちなど、 あの戦争とそんなに時間差のなかった時代に、 もっと描いてくれても良かったなー、とは思います。 ‥でも逆に、同時代だからそういうのは無理なのかもしれないですね。 国のため、村のため、家族のために 理不尽な運命と闘いながら 自分の命を投げ出してくれた人たちの名誉を‥とか考えてしまうと、 やっぱ どうしても「彼は堂々とその命をお国に捧げた」的な 描き方にしたくなっちゃいますからね。とくに彼ら特攻要員と 近いところにいた人ほど‥

 個人的に、回天の自機の故障のため 出撃できなくなってしまった 黒崎の、いかにも所在なげな感じ、 艦が交戦状態に入ったため自分以外の皆が忙しくしている中、 黒崎と、あとは軍医の2人だけがじっと食堂のイスに座ってるシーンが 印象に残りました。あの所在なげな感じが 交戦中の艦の中だけでなく、 再び地上に戻ってからも どこに行っても同じような所在なげな状態に なるっぽい‥なんてことを考えてしまうと、やっぱ、どうしても 死に急ぎたくなってしまう気持ちになっても、おかしくないかな? という 気がしてきました。 やはり特攻というのは「してはいけない作戦」、「統率の外道」に間違いないですね。

 ちなみに、特別攻撃を命ぜられた人たちの周囲の人たちについても、やはり平常心では いられなかったようです。

死ぬことがわかっている戦闘に、戦友を送り出して、自分たちだけが残らなければならない。この動かしえない 現実にかれらは深く心を痛めていた。だからこそかれらは、とぼしい朝鮮あめ とかサイダーとか、 その他いろいろなものをむりさんだんして、われわれのところへ運んできてくれたのかもしれない。‥(略)‥ だからかれらは、「ひとつでもいいから、これを食べながらいってくれ」というだけで、むだ口ひとつ 叩こうとはしなかった。ただ目だけがギラギラ光っている。 (坂井三郎(1967)『大空のサムライ』光人社., p.365)
‥しかし、この特別攻撃は悪天候・敵襲によって燃料不足となり、途中で引き返すことになったのですが。 坂井氏は「合わせる顔がない」(p.375)、 「なんとなくあと味のわるい思いが残っていて、食欲もおこらない」(p.376) などと語っています。 これ、たぶん、上の黒崎の所在なげな感じとピッタリ重なってますけど。 でも本作ではその特攻隊員と一緒にいる人たちの気持ちについては、んー。まあ、 それほど特攻が日常化してきていて、特攻隊員と接していてもそんなに特別な気持ちにはもう なれなくなっていた、そんな感じなんでしょうか。

 本作の出演者の並び、たぶん森(艦長)、葉山(垣田中尉)、石原(黒崎中尉)、長門(今西一飛曹)の 順になってるはずです。でも、本作で最も主役ぽい感じになってるのは 黒崎中尉を演じた石原裕ちゃんですね。いちばん目立ってて、いちばん印象に残る役です。 つまり、デビューしてまだそんなに経過してないんですけど、 日活は裕ちゃんを看板にする気満々だったんだなあ、と改めて感じることができました。

 本作では4艦とも敵船に命中して全員が「本懐を遂げた」感じに なってますけど。まあ、そのへんはドラマですからね‥


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