1956年(狂った果実)から1969年(嵐の勇者たち)までの日活映画、なかでもアクション映画を使って 製作された名場面のアンソロジー。いわゆる総集編。 ‥‥なんですけど、個人的に、これはすごくイイと思います。 単なるアンソロジーを越えた「良さ」が本作にはあると思うのです。
何がイイかというと。この作品は、ハードボイルド作家の矢作俊彦氏が
監督・構成・脚本を担当してるんですけど。
その矢作氏における理想的な日活アクションの姿、というのが
本作の中に投影されている点、それが本作を単なるアンソロジーにとどまらない、
別の何かに仕上げている原動力になっているのではないかと。
正直言えば、この作品を見て「すげー見たい」と思って、
ようやく見ることができた元の作品は‥‥あれ? それほどでもないかも‥orz
なんて経験、何度かした記憶があります。なので余計にそう思うんですよね。
この作品は単なるアンソロジーではなく、
日活アクションの既存のフィルム(と、若干の新規撮りおろし)を用いた
矢作俊彦の映画なんだと。
んで、それが良いか悪いかといえば。私は本作がものすごく好きですので、
ということは「良い」としか言いようがないですよね。
同じことを繰り返しますけど、本作は矢作俊彦作品であって、 単なるアンソロジーではない、だから普通アンソロジーではダメなんじゃないかと 思ってしまいそうなところもOKだよな、なんて思うこともあります。 たとえば本作中での「黄金の野郎ども」(1967)における錠のシーンと錠の台詞。
「レフトのジロー、俺はおまえのたった一人の敵だ。 たった一人の、な。 ‥俺はお前を殺る。俺の手で、かならず殺してやる。」‥これ、実は「黄金の野郎ども」の元ネタ部分を見てみると、台詞が違うことに気付きます。 大元の「黄金の野郎ども」では、実はこう言ってます: 「タテワラ、タケは俺のたった一人の弟だ。 たった一人の、な。 ‥俺はお前を殺る。俺の手で、なぶり殺しにしてやる。」 台詞の差し替え。普通のアンソロジーだと、ちょっと禁じ手ぽい気がするんですが、 本作だとOKですよね。この差し替えに気付いたとき、 ちょっとニヤリとしてしまいましたから。 この「レフトのジロー(二郎)」って、たぶん 「赤い波止場」(1958)で石原裕次郎が演じた富永二郎のことですよね。 残念ながら「赤い波止場」は本作からは漏れてますから、せめて名前だけでも、 という感じなんでしょうか。他にも、 「紅の流れ星」(1967)での五郎の 最後のシーンでも、五郎が口笛で奏でる音楽が変えられてたりします。 このへんもやはりアンソロジーとしてはアレなんでしょうけど、本作ならOKです。
あ、そうそう。この作品にも一応、枠物語というか、ストーリーは用意されています。 それは「年老いた殺し屋がかつて共演したライバルを捜し求めて彷徨する」というもの。 このストーリー部分、枠物語ですのでストーリー的にはどうでもいい、といえば どうでもいい感じなんですけど。台詞などが、矢作監督の思いが伝わってくるようで イイですね。 それと冒頭、「太陽への脱出」(1963)のシーンをうまく使ってますね。 「皆さん今晩は こんな高級高価な場所へ ようこそ」のシーンは音だけ使って 画面は新規撮りおろしにするとか、 「にっかつ」のマークをマシンガンで粉砕するとことか、なかなか面白いです。 ‥すみません。好きなので、なんでも良くなっちゃう感ありすぎなので、 もうこのへんで止めておきます。
[Table of Contents]ちなみに。「女の酒は、口に合わねえ」と言って藤竜也さんが呑んでる(男の)酒が ワイルドターキーなのは確認しました(所謂「こっち向いてるラベル」の、 たぶん「8年」だと思うんですけど‥)。 対する、宍戸錠さんが「フローランルイ。ギロチンが好きだった女の酒だ」というのは Piper-Heidsieck (パイパーエドシック)だろうとは思うんですけど。 でもパイパーエドシックって ラベルが赤いのが普通のように思うんですけど、 本作の映像を見るとどうしてもラベルが赤く見えないのが ちょっと謎で、 そのへんでイマイチ自信がありません。
‥でも。いろいろ見てみると。パイパーエドシックの「ヴィンテージ」には ラベルが赤じゃないのもあるみたいですから(右にバナー)、 宍戸さんが持ってたのはヴィンテージものということでしょうか。
石原裕次郎。「戦後最大のスター」ですよね。本作における裕ちゃんをピックアップ。
‥んー。「鉄火場の風」(1960)と「赤いハンカチ」(1964)の間かな。この頃から、なんか 急に大御所感あふれる感じになってますね。これはこれで悪くないとは思うんですが (「帰らざる波止場」は好きですし)、でもなんか勿体ないといえば勿体ない気も‥。 [Table of Contents]
日活アクション映画のヒロイン、北原さんとか芦川さんとか笹森さんとか松原さんとか、 代表的と思われる人でも結構いるんですけど。(吉永さんは「アクション映画のヒロイン」とは ちょっと違う印象が。) でも誰か一人挙げろと言われれば、 やっぱこの人ですよね。浅丘ルリ子さん。裕ちゃんだけじゃなく、アキラもトニーも 渡も‥とにかく、多くの作品で、いろんなヒーロー達の相手役を演じています。
それと、個人的に「おお」と思ったのが、やはり 「危いことなら銭になる」の 秋山とも子役ですね。 柔道二段・合気道三段でパリに行って柔道の教師になるのが夢という、 じつにパワフルな女の役で、いきなり錠を投げ飛ばす(右図)! ‥という役。 「赤いハンカチ」 「帰らざる波止場」 「紅の流れ星」とかと並べてみると、 この役は目立ちますね。すごいなー。
[Table of Contents]太陽への脱出 // 狂った果実 // 拳銃は俺のパスポート // 二人の世界 // 鷲と鷹 // 泣かせるぜ // 霧笛が俺を呼んでいる // 俺は待ってるぜ // 勝利者 // 太陽は狂ってる // 天と地を駈ける男 // 泥だらけの純情 // 錆びた鎖 // 嵐を呼ぶ男(渡) // 嵐を呼ぶ男(石原) // トニーは生きている 激流に生きる男 // 嵐を呼ぶ友情 // 女を忘れろ // 口笛が流れる港町 // 拳銃無頼帖 不敵に笑う男 // 拳銃無頼帖 抜き射ちの竜 // 鉄火場の風 // 大草原の渡り鳥 // 太平洋のかつぎ屋 // 黄金の野郎ども // 骨まで愛して // 南国土佐を後にして // 赤いハンカチ // 嵐の勇者たち // 危いことなら銭になる // 帰らざる波止場 // 夜霧のブルース // 夜霧よ今夜も有難う // 紅の流れ星 // 黒い賭博師 ダイスで殺せ // 都会の空の用心棒 // ギターを持った渡り鳥‥となってますけど。 「太陽、海を染めるとき」も、なんか入ってる気がするんですけど、どうなんでしょう? ‥と書いてましたが、DVDのブックレット見たら、ちゃんと「太陽、海を染めるとき」も フォローされてましたね。やっぱり‥。